遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 定時になり、バッグを肩にかけて「失礼します」とエレベーターホールに向かう。

 鷹條は姫宮商事ビルのガラス張りのロビーのソファでその長い足を組んで座っていた。
 どこにいても堂々としているので、私服でソファに座っていても全く違和感はない。

「亜由美、お疲れさま」

 亜由美を見つけて立ち上がって歩み寄ってくる。凛々しくて整った顔立ち、さらに立ち上がった時のスラリとした姿にロビーの注目が集まる。

 鷹條は普段、本当に表情を動かさない人なのだが、最近こうして待ち合わせをする時、亜由美を見てふわりと緩める表情が亜由美は好きだ。

 それだって、知っている人でないと分からないくらいの極々微妙な変化。
 そんな変化すらも分かることがくすぐったくて嬉しい。

「千智さんもお疲れさま。お迎えに来てくれてありがとう」
 亜由美はにこりと鷹條に微笑みかける。

「ん……。あ、行こうか?」
 一瞬鷹條がちらっと亜由美の後ろを見たような気がした。

(ん? 後ろに何が?)
 鷹條の表情が気になって、亜由美はそっと振り返る。

 奥村始め、同じ島のメンバーが柱の隙間からそうっとこっちを伺っていて、そのいくつもの頭が見えている。それは亜由美を見守る課員の皆さんなのだった。

「お、奥村さんっ!」
 亜由美は真っ赤だ。
「バレたわ……」
 ぞろぞろと三、四人柱の後ろから出てきた時は、亜由美は言葉をなくした。
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