遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 ──いい大人なのにっ!
「違うのよ、杉原さん! 本当に偶然だからっ」
「偶然? 柱の後ろで……?」

 慌てて言い訳を始める奥村を亜由美はじっと見つめた。

「んー、えーと……多分?」
 側にいた鷹條は苦笑して髪をかきあげた。そして真っすぐ課のメンバー達を見すえる。

「亜由美が皆さんに可愛がられていることは本当によく分かった。初めまして。杉原さんとお付き合いしてます。鷹條です」

 そう言って、柔らかく亜由美の肩を引き寄せる。
 寄り添う美男美女にその場で軽いため息が漏れた。

「すっご……お似合い……」
 嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちとごっちゃになって、亜由美は何も言えなくなってしまった。

 その後、二人で最寄りの駅まで一緒に帰り、鷹條の友人のバーに向かう。
 看板もひっそりと目立たないようなそのバーは表通りから一本中に入った路地にあった。

 黒塀にそっと貼られているシルバーのプレートにライトが当たっていて、それでようやく店舗なのかな? と分かる程度だ。
 開いているのかいないのかも分からない店のドアを遠慮なく鷹條は開いた。

「いいの?」
「大丈夫。時間的には開いてるはずだ」

 その言葉通り、店の中にいた男性は店の中に入ってきた鷹條に「いらっしゃいませ」と笑顔を向けた。

 外観も黒の壁を使用していて落ち着いた雰囲気だったが、中もモノトーンのインテリアと間接照明で落ち着いた雰囲気だ。
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