遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
 カウンターに背の高い椅子が見えるのはいかにもバーらしいが、その椅子が黒の革張りで店の雰囲気を落ち着かせて見せている。

 カウンターの正面にはバーらしく、たくさんのお酒の瓶がまるでインテリアのように綺麗に並べられている。

 店内の間接照明も柔らかい。店内は意外と暗すぎず鷹條の表情まで見えるので安心できる雰囲気だった。
 スタイリッシュでなおかつ落ち着いた、良いお店だ。

「素敵なお店」
「ありがとうございます」
 思わず声が出てしまった亜由美に、カウンターの向こうの彼が嬉しそうににこりと笑う。
 とても綺麗な人だった。

 鷹條は端正できりりとした雰囲気の持ち主だが、彼は柔らかい雰囲気の持ち主で綺麗と表現するのがピッタリな人だ。

「鷹條さんが寄って下さったのも嬉しいけど、もしかして彼女さんですか?」
 カウンターの中から話しかける彼は鷹條とさほど年齢は変わらないように見える。むしろもう少し若いかもしれない。亜由美より少し上くらいだろう。

「そう。亜由美、友人の朝倉(あさくら)
「亜由美さん、朝倉といいます」

 そう言って朝倉は名刺を差し出してくれた。
 黒地にシルバーで印字してあるのがお店の雰囲気にもマッチしていた。

『Clair de lune』と店の名前が書かれてある。
「クレ……?」

「クレアドルーンでいいですよ。フランス語で月の光という意味です」

 どうぞと朝倉にカウンターを手で示されて、端の方に二人で座る。
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