遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました
「ん、サンキュ」
 ごくごくと仰のいて水を飲む姿にすら、ドキドキして、ついじっと見てしまう。手の甲で軽く口元を拭うのもセクシーだ。

「どうした?」
「ドキドキしてた……」
「俺もだよ」

 鷹條の側に立っていた亜由美は首の後ろを軽く引き寄せられて、顔を上げる。
 そっと重なった唇はたった今水を飲んだせいなのか、少しひんやりとしていた。

(どうしよう。大好き)
 少しだけ背伸びした亜由美がぎゅっと鷹條に抱きつく。

「甘える亜由美って可愛いな」
 唇から頬、耳元へと移る唇は色香をふんだんに含んだ声で亜由美に囁く。

「ベッドに、行こうか?」
 亜由美はこくこくっと頷くだけで精一杯だ。
 かかる吐息も、その声にもくらくらとしてしまって、力が抜けてしまいそうだった。

 ふっ……と甘く笑った鷹條が亜由美を抱き上げて寝室へと運んでくれるのも最近はいつものことになってしまっていた。

 軽いベッドの軋みと、体温が離れてしまう感覚で亜由美は目を覚ました。

「ん……帰る?」
「うん。起こして悪いな。そのまま寝ていていい。カギはポストに入れておく」
「……うん」

『所在の明確化のルール』があるから、基本的に鷹條は外泊をしない。
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