お願いだから、好きって言って。


 何事もなかったかのように教室に戻り、空っぽの頭でいつも通り授業をうける。


 誰の声も、私の耳には入ってこなかった。



 何も考えないようにしないと、思い出して……また泣いてしまいそうだから。



「双葉さん? なに重い表情してんの?」


 お昼ご飯を食べていると、覗き込むように相良さんは問いかけてきた。

 綾瀬さんも気付いていたのか、うんうんと大きく頷く。



 そんなに顔に出てたかな……忘れようと、思い出さないようにしてたのに……


 でも、これに関しては誰にも言えない……



 佐藤くんに、相良さんと間違われてキスされた……なんて。



「王子が心配なんでしょ」



 相良さんの一言に、思わず肩が跳ねる。
 否定しなきゃ……相良さんにまで迷惑かけたくない……


「ちが……」
「バレバレだっての。遠慮しないでよ、今更」


 相良さんは呆れたように小さくため息をつく。


 この優しさに甘えるのは、ダメなのに。


 なんで相良さんはそんなに優しいの……



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