神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜
地図上に表せない地形の利。『敵』の人数と武器の種類。行動周期、と。

必要な情報をすべて渡し終えた配下は、少年の姿をした“(あるじ)”を窺うように見た。

「……本当にお一人で? 失礼ながら、なんのための“花嫁”様にございましょう? 貴方様をお助けになり、お支えするのが───」
「くどい」

常の彼の口調からは想像できないほどの、打ち捨てるような物言い。

犬の半妖である“眷属(けんぞく)”は、“主”の叱責に、思わずといった(てい)でひざをつく。
が、その不自然さに気づいたようで、あわてて草履(ぞうり)を直す素振りをしてみせた。

「出過ぎた口を……」
「二度と申すでない。
……それより、わしの留守を頼む」

言外に、“花嫁”を護れと伝えたことを、忠実な“眷属”は理解したようだ。

「承知いたしました。では、わたくしは、これで」
「ああ、そうじゃ、待て」

見た目はつぼ装束をまとう女人(にょにん)にしか見えない犬耳の配下を、黒虎(こくこ)が呼び止める。
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