神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜
(『使用人など居ないものとして過ごせ』と、よくお祖父様がおっしゃったものだが)
ひょっとしたら、この屋敷───『コクの家』では使用人に対し、あえて姿を見せないよう教育をしているのかもしれない。
そんなことを思いながら、百合子は脱衣場で自らの着物にたすき掛けをする。
「『嫁』の務めだ。背中くらい流す」
ちら、と、コクを見やれば、肝心の本人は途方に暮れたような顔のまま、黒い道着を脱ぐ気配すらない。
百合子は、溜息まじりに口を開く。
「いまさら、なんだ。
まさか男のくせに、私に肌を見られるのを嫌がっているのではあるまいな?
……嫁の、私に」
ぼそっと付け足した言葉は、我ながら必要以上の強調句だ。
(嫁だと言っておきながら、私の扱いはまるで『客人』ではないか)
金子と引き換えの嫁には違いないが、契りを交わしたと言いながら、自分たちは未だに『初夜』を迎えてはいない。
(私が年上で気後れしているのか?)
ならば嫁に迎える前に、縁談を断って欲しかった。
同じ女学校に通う友人たちは次々に嫁ぎ先が決まり、百合子も多少のあせりはあったが、結婚とは所詮、家同士の利害関係で成立するもの。
自分の意思などお構い無しに───。
ひょっとしたら、この屋敷───『コクの家』では使用人に対し、あえて姿を見せないよう教育をしているのかもしれない。
そんなことを思いながら、百合子は脱衣場で自らの着物にたすき掛けをする。
「『嫁』の務めだ。背中くらい流す」
ちら、と、コクを見やれば、肝心の本人は途方に暮れたような顔のまま、黒い道着を脱ぐ気配すらない。
百合子は、溜息まじりに口を開く。
「いまさら、なんだ。
まさか男のくせに、私に肌を見られるのを嫌がっているのではあるまいな?
……嫁の、私に」
ぼそっと付け足した言葉は、我ながら必要以上の強調句だ。
(嫁だと言っておきながら、私の扱いはまるで『客人』ではないか)
金子と引き換えの嫁には違いないが、契りを交わしたと言いながら、自分たちは未だに『初夜』を迎えてはいない。
(私が年上で気後れしているのか?)
ならば嫁に迎える前に、縁談を断って欲しかった。
同じ女学校に通う友人たちは次々に嫁ぎ先が決まり、百合子も多少のあせりはあったが、結婚とは所詮、家同士の利害関係で成立するもの。
自分の意思などお構い無しに───。