神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜
『……百合が嫌なら、それは断るべきだ』

ふいに、誰かの声が百合子のなかでよみがえった。

若い、男の声だ。しかし、その人物の顔も名前も思いだせない。

(いったい誰なんだ───っ……)

自らの記憶を深く探ろうとしたとたん、ズキンと脳内に痛みが走る。

「……百合? 気分でも優れぬのか?」

心配そうにこちらをのぞきこむコクの黒い瞳に、百合子はハッと我に返った。

「いや、なんでもない。それより早く脱げ」
「うわっ……ままま待つのじゃ、百合っ……!」

近づいた少年の着物の合わせをぐいとはだけさせると、悲鳴のような声があがる。

百合子は思わず、ムッと顔をしかめた。

(おおげさな男だな。私を痴女扱いするとはどういう───)

思考が、止まる。
目の前の少年の露わになった素肌に、理解が追いつかなくなってしまった。

二の腕同様、引き締まった肉体美を見せる裸体は、しかしまた、彼の年齢に不つり合いな傷痕(きずあと)が無数にあったのだ。
───まるで、数多(あまた)の戦場から生還し続けた、兵士のような。
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