神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜
(なぜ、こんなにも傷が……)

歳からして、徴兵されるはずがない。
では彼は、いつどこで、こんな傷を負うような経験をしたのだろう。

「……待てと、言うたのに。百合は利かん気なおなごじゃのう。
不快な思いをさせて、すまなかった。
湯は、頭からかぶる。今日はそれで、(ゆる)せ」

先ほどの悲鳴から一転し、静かな声音で告げた少年の手が、百合子を脱衣場から閉め出した。
やんわりとした、明らかな拒絶と共に。





弱い陽の光が、差し込んでいた。
秋の夜長というが、朝はやってくるのだ。

(一睡も、できなかった)

床に就いただけで、百合子は一晩中、寝返りをうっていた。

(私は……なぜ、『ここ』にいる?)

傾きかけた生家を助けるため、人身御供(ひとみごくう)のように地方の旧家に嫁がされたのだと信じていた───夕べまでは。

(いや、そう思いこもうとしていただけだろう)

楽なほうに流され、真実と向き合わずにいたのだ。
本当は心のどこかで気づいていた、コクが自分の『婚約者』ではないと。
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