神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜
「“国獣”の地位に就いてからは、いいように人間どもに使役され、ようやく“花嫁”を迎える段になったかと思えば……。
このような【見目ばかり映えた中身のない人形】が喚ばれてしまうなど……本当に不運な“主”様」

そこまで聞いて、百合子は唐突に理解した。

(ようするにコクの嫁である私が、気に食わないというわけか)

肉体と心情を傷つけられ気分は悪いが、百合子はこの犬耳の女を嫌うことはできなかった。

(おそらく、それだけコクを慕っているのだろうな)

そんな思いが(おもて)に出てしまったのか。
美狗の目が、すっ……と、細くなった。

「わたくしに、情けなどいりませぬ。
ただ、貴女様にはコク様にふさわしい“花嫁”として、在って欲しいだけにございます。
わたくしがこのように貴女様を傷つけたのは───」
「美狗! 何をしておるのじゃ!」

一喝(いっかつ)と共に、障子が開く音が聞こえ、次いで、
「……良いと申すまで、姿を見せるでない」
低く、感情を抑えるような少年の声がした。

とたん、百合子の身体に自由が戻る。
が、見えぬ拘束の反動からか、疲労感が全身にどっと押し寄せてきた。

そんな百合子の目に、美狗と入れ替わるようにして、ざんばら髪の少年の姿が映る。
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