神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜
屋敷の外は深い森に囲まれ、右に行って良いものか、左に行って良いものか、百合子には見当もつかなかった。

しかし、頭に血がのぼった百合子には、方向も目的地もどうでも良かった。

あの犬耳の女をつかまえ、昨日の話の続きがしたかった。

(美狗なら何か知っているはずだ)

コクの(かたく)なな態度の理由を。

「美───」

ふたたび声を張りあげた百合子の視界が、突然、真っ黒いものにふさがれる。

と、思った瞬間、
「“花子”を困らせてはいけませんなぁ、御方(おかた)様ぁ!」
低い、地鳴りのような声が、頭上から落ちてきた。

「美狗ならお側に控えておりますぜ。
───おおい!
こんなに御方様が呼びなすってるのに、しらばっくれてるたぁどういう了見だぁ?」

びりびりと、肌を刺すような声に驚いたのもつかの間、見上げた百合子の目に入ったのは、大きな熊だった。

コクと同じく、そでなしの黒い道着を身にまとっている。

(……く、熊が、しゃべった……?)
< 39 / 82 >

この作品をシェア

pagetop