神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜
一見すると、直立した熊が横を向いて咆哮(ほうこう)をあげているようだが、牙がのぞき、ひらかれた口からは人語が発せられていた。

「……うるっさいクマだねぇ。百合様が驚いて固まっちまってるじゃないか。
出てこれなかったのはコク様の命さ。仕方ないだろ」

はすっぱな口調の女の声は、聞き覚えのあるもの。

熊の視線の先で立ちのぼった煙が、一瞬のち犬耳の女の形を成す。

次々と目の前で起こる事態に、百合子はあっけにとられるしかなかった。

くすり、と、そんな百合子を見て美狗が笑う。

「百合様。
この無粋なクマが、百合様がお会いになりたいとおっしゃっていた熊佐にございます」
「ははっ!
驚かせるつもりはなかったんですがねぇ、まぁ、仕方ありませんや。ひとつよろしくってなもんでぇ」

豪快に笑い飛ばしたのち、大きな熊は百合子の前に片ひざをつき、頭を下げた。

それでも百合子の背と同程度の位置にある頭。小山のような巨体だ。ヒグマの類いだろうか?
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