神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜
『コク様ほどの御方であれば、物ノ怪の思念など“(みそぎ)”を経て、たやすく落とせましょう。
あれは、ご自身が望んでそのままにしておられるのです』
「……あえて残しているというのか?」
『その証に、人の目に触れる場所に、傷痕はないのではありませぬか?』

言われてみれば、コクの二の腕や顔に傷はない。百合子が見たのは普段は着物に隠れる箇所だ。

人目に触れぬ場所にあえて残す傷痕。それが、何を意味するのか。

『……わたくしの話は、ひとまずこの辺りで。続きは、のちほど』

美狗が百合子の身の内でそう告げると、百合子の手が百合子の意思とは関係なく動いた。

空中にある何かを取り寄せるしぐさ。
すると、百合子の目には見えないが、指先に絹のような感触が伝わった。

やわらかな風が、百合子の身をつつみこむ。
と同時に、視界が(しゃ)にかかったように、見えない何かを隔てた感覚となった。

『これで百合様の御身は、外界からは見えぬ存在となりました。
ですが、お声は届きますゆえ、お気をつけくださいませ』
「……分かった」
< 43 / 82 >

この作品をシェア

pagetop