神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜
《三》別れの刻限──進むべき道を決めるのは、自分
かつて『人』であった存在は砂塵と化し、木枯らしに吹かれて散ってしまった。
『───……百合様』
ややしばらくの間、立ち尽くしていた百合子に、身の内から声がかかった。
『“影”から抜け出ます。御身に力を入れてくださいまし』
美狗から言われた意味が解ったのは、その直後。
急激な疲労を感じ、ふらつきながらも、百合子は両ひざに手を置き己の身を支えた。
見えぬ絹衣が、百合子の身体をすべり落ちる。
「お願いでございます!」
突然、美狗が百合子の足もとに、ひれ伏した。
「あのような“役割”を、お優しいコク様だけに、背負わせないでいただけませぬか……!」
犬耳の女の懇願は、悲愴なまでの切実さが感じられた。
「百合様にはコク様の支えに……導となっていただきたいのでございます……!」
百合子は、自分を目の上のこぶと思っているだろう相手からの申し出に、あっけにとられる。
「……私に……コクの導となれだと?
それが、コクの言った『あと二日』と、どうつながるというのだ」
数秒ためらった気配ののち、思いきったように美狗が百合子を見上げた。