神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜
肆 刻まれし罪
《一》赤い瞳が映したもの
ひとめ惚れ、というものが、人の世にはあるという。
「美形じゃのう……」
口をついて出た感嘆の言葉は、彼女の表面的なものをなぞったに過ぎない。
背の半ばまであるつややかな黒髪も、磁器を思わすような白い肌も、それに映える紅唇も。
潔癖さと激情を宿す強い意思の輝きを放つ瞳に比べれば、彼女を彩る装飾品でしかなかった。
魂の高潔さが表れた、その眼差しに射抜かれた瞬間。
自分という“神獣”が、人の世に遣わされたことの意味が、ようやく解ったような気がした。
彼女と出逢うため、今日まで生きてきたのだと。
……そう、思った、のだが。
「私を、すぐに戻してくれ!」
彼女の口から発せられた初めての『願い』は、ふたたび自分を無慈悲な神の獣───『死の遣い』へと、追いやったのだった。