神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜
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「あに、うえ……」
“契りの儀”を終え、なんとか彼女をこの世界につなぎ止めた。
「なぜ……」
高熱にうなされ、床に伏したままの“花嫁”。
熱のために流れ落ちる涙のはずが、他にも何か要因があるように思えてならなかった。
この世界にある者との接触が極端に少ない彼女が、流行り病に侵されることはないだろう。
ましてや“神籍”にある身だ。五日も六日も寝込むなど、あり得ない。
「心労からかのう……」
未だ目覚めぬ“花嫁”を見つめ、ぽつりとつぶやく。
───儀式の晩の、あの取り乱し方。
ヘビ神によれば、“召喚”する者の条件には、親兄弟をすべて亡くしていることが挙げられていた。
それは、肉親のいない者であれば、その者が居なくなっても哀しむ者が少なくて済む。
何より、この世界で手厚く歓迎すれば「居心地がいい」と当人が感じやすくなるだろうという思惑かららしい。
(こちらの都合ばかりで喚んでしまうのじゃ。そんな単純な話ではなかろうに)
現に、彼女は自分に「元の世界に戻せ」と迫ったのだから。
「兄上……」
繰り返されるうわごとに、黒い“神獣”はヘビ神の元へと向かう決意を固めたのだった。