神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜
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「カカ様」
気取った女の呼び声。
幾年も【この魂】に寄り添い続けた伴侶のものだった。
自分の頭を支えた、やわらかなひざ枕の持ち主を見上げる。
ふっくらとした頬と丸い鼻に、分厚いが小さな唇。
常に真実を見極めようとする、鋭く細い眼。
「猪子はいつ見ても、美しいおなごじゃ」
白昼夢から覚めた心地のまま、焦点を一瞬だけシシ神の“化身”に定めたあと、ヘビ神の“化身”は目を閉じた。
「……我を、非道な神獣と思うか?」
「カカ様ほど情け深いお方を、わたくしは知りませぬ」
「……上手い言い逃れをする」
道理を外れていても、情は捨てていない。
いや、いっそ、情けがあるゆえに導いた『道』なのだ。
「かの者らの行く末をご存じでおられたからこそのお導き。
いずれ“花嫁”自身も、なぜ己が【選ばれたのか】理解いたしましょう」
過去も現在も未来も。
無数の選択の上に成り立っている。
『始まり』と『終わり』は定まったものだが、そこに至る『経緯』は、それぞれが選び、つかみ取るものだ。
速男はそれを、明確に悟らせただけ。