神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜
重ねられた指に、ぎゅっと力が込められる。

「百合。短い間であったが、おぬしがわしの“花嫁”でいてくれて、良か───」
「勝手なことを言うなっ……!」

コクコの言葉をさえぎって、百合子はその手を思いきり払いのける。
拍子に、金色の稲穂が宙を舞い、きらきらとした光を()き散らしたのち───消えた。

その様に驚き、目をみはったコクコの黒い道着の胸ぐらを、百合子はぐいとつかみ上げる。

「お前はっ……私をなんだと思っている!」
「ゆ、百合? いったい、何を怒っておるのだ……?」

百合子の怒りをまるで理解できないでいるコクコは、なすがまま百合子を見上げあっけにとられている。

「私の都合も訊かず、ここに()んで“花嫁”にしておきながら、今夜は新月だから私を元の世界に還してやるだと!? ふざけるのも大概にしろ!」

ぱちぱちと目を(しばたた)かせていたコクコは、そこでようやく合点がいった表情をした。

「……百合の怒りは最もなことじゃな。おぬしの気が治まらぬのも道理。
わしを殴るなり蹴るなり、好きにするが良い」
「……っ!」
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