神獣の花嫁〜刻まれし罪の印〜
それ(・・)もか……」
「ソレもじゃ!」

闘十郎は、快活に笑い飛ばす。
それに対し百合子は、自身の失態を恥じ入るように押し黙ってしまった。

(少し戯れが過ぎたかの)

何も言わずに背負われたままの麗しき黒い“花嫁”に、慰めの言葉をかけようとした、その時。

「……闘十郎」

すっ……と、頬を伝い唇に伸びてくる、しなやかな白い指先。

「私に、飲ませてくれるんだろう?」

この口で、と。
耳もとで吐息と共にささやかれる、甘い欲望。

「……っ」

幾度となく告げられた、願いの形をとった(ねや)への誘い。
聞き慣れることもなく、闘十郎は思いきり、その身を跳ねさせた。

「わ、分かった。屋敷まではあと少しの辛抱じゃ。しばし待───」
「待、て、な、い」

言葉じりをさえぎった唇が、闘十郎の耳たぶに触れたかと思うと甘噛みされた。

(……まったく。百合はわしを困らせるのが得意なおなごじゃ)

本人の自己評価は「自分には色気がない」と言うが、闘十郎にとっては初めて出逢った時から、百合子という存在に惑わされっぱなしである。
< 80 / 82 >

この作品をシェア

pagetop