ホテル御曹司は虐げられ令嬢に生涯の愛を誓う
三隅から私は低栄養と脱水症状と聞かされた。栄養をきちんと取れれば声も出せるようになるらしい。
「沙凪お嬢様、声が出せられるようになるまではこちらのノートとペンをお使いください」
私は早速ノートに文字を書いて三隅に見せた。
『三隅、ありがとう。少し、お腹すいちゃったかな』
「沙凪お嬢様、かしこまりました。食べられるものを用意してまいりますね」
三隅が部屋を出て行くと、入れ違うように部屋へと入ってきた紺色のスーツを着こなしている男性に私は首をかしげた。
(誰だろう?)
私はノートにペン先を走らせていく。そして目の前に腰を下ろした高身長の男性にノートを見せる。
『あなたは杏華旅館の人ですか?』
男性は私の書いた文字を声に出して読み上げてから教えてくれた。
「私は杏華旅館の人ではありません」
私も男性の言葉にノートに聞きたいことを書いて見せた。
『どちら様でしょうか?』
男性は私の言葉になぜか苦笑いをした。そして男性はそっと私の頬に優しく触れた。
「俺のこと、わかりますか?」
思い出した。この懐かしい手の男性はひとりしかいない。