ホテル御曹司は虐げられ令嬢に生涯の愛を誓う

「沙凪お嬢様」

私の呼ぶ声にどこか懐かしく感じた。

「着物じゃないからわからないか」

「えっと、亜実さんに似ている?」

「そうよ、今日は旅館の方は休んでこの病院を手伝っているの」

亜実さんは杏華旅館の若女将をしている。そして看護師の資格を持っていて、人手が足りない時は病院のお手伝いをしているらしい。

女医さんは他の患者さんの方へ行ってしまって今は亜実さんと二人きりに。

「ワンピースを捲ってそこの内診台の上で横になってね」

亜実さんに言われてワンピースを捲って台上に乗る。

「今から指くらいの細い棒状の器具を腟内に挿入して確認していくね。 ゆっくり息を吸って吐いて〜」


私は息を吐いてる時に股の間に妙な違和感を感じた。壁に付けられてるモニター画面を見ながらわかりやすく説明をしてくれた。

そして小さくドクドクドクと音が聞こえる。

「あっ、この音、わかる?赤ちゃんの心音よ」

「赤ちゃんの……」

頑張ってお腹の中で生きているんだ。

内診台から降りると女医がパソコンの画面を見ている。

「おめでとうございます。ちょうど七週目に入ったところです。今、悪阻はありますか?」

「悪阻、ですか?」

悪阻というのは吐き気のことを言う。この吐き気の正体は妊娠によるつわりだった。

「はい、あります」

「わかりました。高城さんはどうされますか?」

女医が私に尋ねているのは産むのか堕すのか。
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