ホテル御曹司は虐げられ令嬢に生涯の愛を誓う
埃が舞う部屋を綺麗にして廊下に置いてある荷物を部屋へと入れていく。
「二人とも手伝ってくれてありがとう」
「いえ、沙凪お嬢様。私たちはここまでしかお手伝いができなくて申し訳ございません」
「私、ここで使用人として頑張るわね」
私の言葉に三隅と桝田は微笑んで頷いた。そして、三隅は私の手を優しく包むように握りしめた。
「沙凪お嬢様、私たちが必ず迎えに行きますからね」
「それまでは辛い生活になると思いますが待っててください」
「三隅、桝田、その言葉だけでも嬉しいわ。ありがとう」
すると、三隅と桝田以外にも使用人と料理長までもが荷物をまとめている。
「みんな、ここから居なくなってしまうのね」
これも、お父様の一言で決まるものだ。
「私たちからはこれを渡しておきます」
桝田から受け取ったものはこの家のことについてわかりやすく書かれているノートと料理長がまとめてくださった料理のレシピノートだった。
「今までお世話になりました」
「どうぞ、これからもお元気でいらしてくださいませ」
私は涙を拭ってみんなを見送る。
使用人となった生活は覚悟していたものよりも無慈悲な日々が待っていることをまだ知らなかったのだ。