帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める
(せめて、華やかな柄のリボンだけでも付けられれば良かったのだけど……)

 琴子の下げ髪を彩っているのは祖母の形見でもある珊瑚の根掛(ねが)けくらいだ。
 質はいいのだが、玉が並んでいるだけなのでリボンに比べると華やかさが少ない。
 それならばせめて着物をとも思うが、人気の夢二や華宵の柄物は父が許してはくれなかった。
 しかも皆が着ている矢絣柄も琴子はある理由から着られない。
 なんとも寂しい卒業だと言わざるを得なかった。

「千歳さんはご卒業後どちらに? まだご結婚はなさらないのでしょう?」

 まったく華やかさのない我が身を嘆きたくなり、琴子は意識を別に移そうと話題を振った。

「ええ、婚約者の家は女性の社会進出にも好意的なので……少々封邪師(ふうじゃし)の補助をしてみようかと」

 封邪師とは、世にはびこる邪気を封じたり払ったりする異能持ちの者達のことだ。
 千歳も異能持ちの家系のため、封じ札を作るなどの補助が出来る。

「まあ! 素敵、お仕事をなさるのね。出来るものならば、私も数年くらい外で働くということをしてみたかったわ」

 女性の社会進出が増えてきている昨今。
 華族の令嬢でも婚姻前の社会勉強と称して数年外で働く者が増えてきた。
 琴子の父のように古い考えをする者もまだ多いが、千歳のように卒業後働きに出る女性は女学校卒業者の半数を占めている。

(まあ、私の場合は必ずしもお父様が原因というわけではないのだけれど)

 右手の数珠をチラリと見ながら、琴子は自身の運命に苦笑いを浮かべた。
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