帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める
「琴子さんも? ですがその……琴子さんは櫻井の鬼花ですよね?」
細い指を口元に添え、千歳が戸惑い気味に確認の言葉を口にする。
櫻井の鬼花。
鬼花とは、この帝都を守護する最強の鬼の花嫁のことだ。
古来より帝のおわす都の守護をする代わりに、花嫁を所望し続ける鬼。
その所望される花嫁を輩出する家として、櫻井家がある。
そう聞くと生け贄にでもなるのかと思うものもいるが、むしろ真逆であった。
櫻井の鬼花は幼い頃に守護鬼の妖力が込められた紅玉の数珠を身につけることで、かの鬼の花嫁となる。
そして十六の歳に【離縁の儀】を行い花嫁を辞し、人の家へと嫁ぐのだ。
守護鬼の妖力を長年受けてきた櫻井の鬼花は、強い異能持ちを産むとして重宝されている。
故に、琴子はこの後【離縁の儀】に臨み守護鬼との離縁が成立すると、異能持ちの家系である婚約者の家へと早々に嫁ぐことになっていた。
決められている運命でもあるため自由はないが、重宝されているので酷い扱いを受けることもない。
ある意味では幸せ、ある意味では不幸な存在なのだ。
そのような存在である櫻井の鬼花が外で仕事をしてみたいなどと、口にしただけでも周囲を困らせてしまう。今のように。
「ごめんなさい、千歳さん。言ってみただけよ、気になさらないで?」
困り笑顔を浮かべると、千歳はホッと安堵の笑みを浮かべた。
「では、琴子さんはそのうち【離縁の儀】を?」
「ええ、明日にでも行う予定よ」
これ以上困らせてしまわないように笑顔で答えた琴子は、千歳の矢絣柄の着物を見てわずかに眉を下げる。
弓矢は一度放つと真っ直ぐに飛んでいき戻ってこないということから、卒業に向いている柄だ。
だが、明日守護鬼と離縁する琴子の場合は戻ってこなければ困るのだ。次の嫁ぎ先もとうに決まっているのだから。
だから、縁起が悪いということで今日は着させてはもらえなかった。
細い指を口元に添え、千歳が戸惑い気味に確認の言葉を口にする。
櫻井の鬼花。
鬼花とは、この帝都を守護する最強の鬼の花嫁のことだ。
古来より帝のおわす都の守護をする代わりに、花嫁を所望し続ける鬼。
その所望される花嫁を輩出する家として、櫻井家がある。
そう聞くと生け贄にでもなるのかと思うものもいるが、むしろ真逆であった。
櫻井の鬼花は幼い頃に守護鬼の妖力が込められた紅玉の数珠を身につけることで、かの鬼の花嫁となる。
そして十六の歳に【離縁の儀】を行い花嫁を辞し、人の家へと嫁ぐのだ。
守護鬼の妖力を長年受けてきた櫻井の鬼花は、強い異能持ちを産むとして重宝されている。
故に、琴子はこの後【離縁の儀】に臨み守護鬼との離縁が成立すると、異能持ちの家系である婚約者の家へと早々に嫁ぐことになっていた。
決められている運命でもあるため自由はないが、重宝されているので酷い扱いを受けることもない。
ある意味では幸せ、ある意味では不幸な存在なのだ。
そのような存在である櫻井の鬼花が外で仕事をしてみたいなどと、口にしただけでも周囲を困らせてしまう。今のように。
「ごめんなさい、千歳さん。言ってみただけよ、気になさらないで?」
困り笑顔を浮かべると、千歳はホッと安堵の笑みを浮かべた。
「では、琴子さんはそのうち【離縁の儀】を?」
「ええ、明日にでも行う予定よ」
これ以上困らせてしまわないように笑顔で答えた琴子は、千歳の矢絣柄の着物を見てわずかに眉を下げる。
弓矢は一度放つと真っ直ぐに飛んでいき戻ってこないということから、卒業に向いている柄だ。
だが、明日守護鬼と離縁する琴子の場合は戻ってこなければ困るのだ。次の嫁ぎ先もとうに決まっているのだから。
だから、縁起が悪いということで今日は着させてはもらえなかった。