帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める
 厳しい父。それにしずしずと付き従うだけの母。
 兄もいるが、鬼花は父親以外の男と触れ合うことが出来ないため会うことすら年に数回だ。
 そのような家族に縛られてきた十六年間。
 好きなことは許されず、父の望むままに育てられた。
 だが、それも明日【離縁の儀】を終えて嫁ぎ先へと向かえば変わるだろう。

 嫁ぎ先の桐矢(きりや)家の若君は千歳の婚約者のように女性の社会進出に寛容だと聞く。
 鬼花である自分を外に出すことは許してくれるかわからないが、父のように着物や身につける小物にまで文句は言わないだろう。
 少なくとも今よりは良い環境になるはずだと、琴子は希望を持って女学校を卒業した。

 ***

 緊張で震えそうになる手を抑えながら、丁寧に魚の骨を取っていく。
 食事一つ取っても礼儀にうるさい父は、みっともない行動をするとすぐに叱責を飛ばしてくるのだ。
 普段は別々に食事を取っているが、卒業の祝いということで今日は夕食を共にしている。
 だが、どんなご馳走だったとしてもこの緊張の中食べるのでは味もろくに分からない。
 祝いというより何かの罰なのではないだろうかとすら思ってしまった。

「さて、ようやっと卒業したな。明日は【離縁の儀】だ。滞りなく行うように」
「はい……」

 食後、母の淹れた茶を飲みながらいかめしい顔立ちの父が上機嫌に語る。
 一応卒業の祝いという名目で共に食事をしたというのに、『おめでとう』の一言もないとは……。
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