激甘バーテンダーは、昼の顔を見せない。
謎だらけの、東郷さん。
だけど…そんなことを気にするのが馬鹿馬鹿しく感じるくらい…東郷さんは私を愛してくれている。
愛されたいと願った、【西條綾乃】。
それを叶えてくれる、東郷さん。
東郷さんが謎だらけでも良いから
このまま関係を持ち続けたいと、心の底から願う自分がいた…。
「しかし、聖華ちゃんと東郷くんが付き合い始めるとは…。何が起きるか分からないね」
「私もそう思います。…婚約破棄してすぐに付き合うなんて、どれだけ軽い女なのかと思いますけど」
マスターは私の前にお酒の入ったグラスを置く。
カクテルグラスに注がれた、真っ白なお酒が、静かに揺れ動いている。
「マスター、これは初めて見ます」
「…こちらは、ホワイト・レディです。カクテル言葉は…『純心』。素直で邪心のない心…」
「それはまた…私とは正反対の言葉ですね…」
ホワイト・レディと呼ばれたそのお酒。
少しだけ口に含むと、レモンのような柑橘類の香りが鼻に抜け、甘く辛い刺激が後からやってきた。
「…美味しいです」
「でしょう。素直な聖華ちゃんには、ピッタリだよ…」
「マスター…私、全然素直では無いです」
「…大丈夫。誰が何を言っても…聖華ちゃんは、素直だよ…」
もう一度、ホワイト・レディを口に含む。
少し強い刺激が、癖になりそう。
「何だか、マスターにも惚れそうです…」
「ふふふ…それは困るね。和孝くんと取り合いになってしまう」
何度考えても、マスターが言った『素直』の意味が分からない。
けれど今は…
「お酒が、美味しい」
ただそれだけを思い、面倒なことは何も考えなくても良いような気がした…。