激甘バーテンダーは、昼の顔を見せない。



今日も東郷さんの勤務が終わるまでゆっくりと過ごし、一緒にバーを後にする。

制服を脱ぎ、今日もスーツに着替えた東郷さんからは、いつになく大人な雰囲気が漂っていた。


「西野さん、これ…お土産です」
「お土産…?」

手を繋いで歩いている最中、東郷さんは唐突にそれを差し出した。

『阿蘇山』と書かれた1人用の小さな入浴剤セットだ。


「あ、ありがとうございます…」


パッケージに書かれている文字に驚いた。


阿蘇山?


「本業で、旅行に行っていたんです」
「……旅行」


益々分からない、東郷さんの素性。


旅行に行く本業って何だろう…。
そんなこと考えながら歩き続けていると、そっと肩に腕を回され、抱き寄せられた。


「本業のこと、秘密にしているわけではありません。ただ、今はまだ決心が…というだけです」
「…決心?」
「ただ…西野さんも『俺に隠していることを明かしてくれた時』、自ずと俺のことも…分かると思います」
「………え?」



意味が………分からなかった。



私が隠していることは【西條綾乃】しかない。


……東郷さんは、【西條綾乃】を知っているということ…?
一度も話したことが無いのに…?



そう言えばこの前。
東郷さんは光莉さんのことを詳しく知っていた。



それも何か、関係している…?




その場でフリーズをし、悩む私。
黙り込んでいると、東郷さんが口を開いた。


「大丈夫です、西野さん…。お互いのこと、焦らずにゆっくり明かして行きましょう…。それは決して、悪いことではありませんから」
「……」


なんと言えば良いのか…。
言葉が出てこない。


そんな私に東郷さんはまた優しく微笑んで、そっとキスをした。





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