激甘バーテンダーは、昼の顔を見せない。
光莉さんは豪邸に1人で住んでいる。
親から譲り受けたと言っていたが…1人で住むにはあまりにも広すぎるその家。
道を歩いていると急に現れる大きな門。
その先に続く、長いアプローチ。
門のところに設置されたインターホンを、何も躊躇いなく押した。
ピーンポーン…
『はい、藤山でございます』
「西條産業開発の…西條綾乃です。光莉さん…いらっしゃいますか」
光莉さんとは本名で接している。
婚約者だし、当たり前のことだけど。
『あら、綾乃様。いらっしゃいませ。しかし申し訳ございませんが、光莉様はまだお戻りではございません。お約束でしたら、中でお待ち頂きますか?』
まだ戻って無いのか…。
光莉さんは忙しい人。
だからまぁ、居なくても全く不思議では無い。
「いえ、突然押し掛けましたので。また改めてお邪魔しようと思います。失礼致します」
インターホンに向かって一礼をして、一歩下がる。
そしてそのまま、来た道を歩き始めた。
今日は夕食に何かテイクアウトをして、家に戻ろうかな。
何を食べたい気分か…そんなことを悶々と考えながら歩いていると、反対側から歩いてくる男女が見えた。
その男女はカップルなのだろうか。
腕を絡ませ、密着しながら歩いている。
「………」
いや。
光莉さんだ。
光莉さんと…誰?
見たことのない笑顔と喋り方。
自然な光莉さんのその姿は、私の前では決して見せたことないものだった。