激甘バーテンダーは、昼の顔を見せない。
東郷さん。
東郷さんのこと、今も知らないことの方が多いけれど。
お付き合いをし、私を愛してくれる…東郷さん。
そして、そんな彼のこと。
私は…好きになっていた。
東郷さんとの将来を考えたいと、素直に思った。
「お父さん、お母さん。実は…将来を考えたいと思える男性に…出会いました」
「おぉ?」
驚いた表情をする両親。
恥ずかしさで思わず目線を逸らしてしまいたい衝動に駆られるが、そんな感情を捻じ伏せ…両親を交互に見る。
…怖い、なんて言われるのだろう…。
しかし、そんな恐怖心も、父親の一言で吹き飛ばされる。
「…そうか」
そう呟き、2人はお互い目を合わせたあと、静かに微笑んだ…。
「…?」
「綾乃、良いじゃない」
「…え」
両親の反応は、想定外だった。
「どんな人かは…まだ聞かないよ。昔…綾乃が【西野聖華】として公立中学校に行きたいと言った時にも言ったけれど。わしらは、綾乃の幸せを一番に願っている。綾乃がどうしようと、それは綾乃の人生だ」
「そうなの、綾乃。ここ最近の綾乃に、男っ気が無かったから…藤山さんから来たお見合いの依頼を受けたけどね…。本当は私たち、綾乃が好きになった人と結婚してくれることが、一番の喜びであり、願いなの」
初めて聞く両親の思いに、胸が熱くなった。
「お父さん…お母さん…」
正直…【西條綾乃】の名を隠すことは、親不孝だと思っていた。
せっかく授けてもらった名前を隠して生きていくなんて…本当は、罪悪感でいっぱいだった。
「ただ、綾乃。そのお付き合いをしている人には、誠実にすること」
「きちんと【西條綾乃】として…彼を大切にしなさい」
父親の言葉は、嫌と言うほど胸に響く。
本当に、お父さんの言う通り。
「…分かりました。お父さん」
両親との会話を終え、実家を後にする。
帰り道を1人で歩きながら…東郷さんに自身のことを全て明かす決意をした。