激甘バーテンダーは、昼の顔を見せない。



「…嘘でしょう」

東郷さんが、13年前に私の担任をしていた…東城先生?

地味な東城先生と、容姿端麗な東郷さんは…全く結びつかない。


教師なのに…バーテンダー…。
そして、私と同じ…偽名で行っている仕事。


もう、何一つ理解できない…。


「この際だから、全部話しますね。まず…西條さん。東洋商事株式会社をご存知でしょうか? 」
「…はい、知っています」

東洋商事株式会社。
こちらも言わずと知れた大企業。

しかも…うちや藤山物産よりも…少し上だ…。

「ご存知頂けて幸いです。現在この東洋商事株式会社の取締役副社長を務めておりますのが、俺…東郷和孝です」
「え?」
「社長の息子ってやつ、やっております」
「……」


いや、待って……。

情報量が多すぎて理解が追いつかない。


東郷さん、本業は高校教師。
だけど、東洋商事株式会社の御曹司であり、取締役副社長をしている…?


「そして、杉原さんがマスターをしております『隠家BAR lie』は、東洋商事が経営しているお店になります。杉原さんはうちの社員さんです」

「俺がバーテンダーとして働き始めた理由。それは単に興味があったから…というのもありますが…杉原さんから、『ここに西條綾乃が通っている』と聞いていたからです」

「…え」


もはや…急展開すぎる内容に脳がフリーズする。


「え、ということは。マスターは……私が【西條綾乃】だってこと、ずっと知っていたということですか?」

「その通りです」

「杉原さんの本業は、情報屋です。昔から沢山の情報を彼に仕入れて貰って来ていました」

「『西條産業開発の社長令嬢【西條綾乃】が【西野聖華】を名乗り始めたこと』『公立中学校に転校したこと』『俺が勤務していた高校に入学してきたこと』」

「この前お話した、藤山光莉と鷹宮梨香子の件もそうです。全て、杉原さんが仕入れて来てくださる情報です。この業界のことについては、知らないことがありません」


……衝撃的すぎる話。
ついに、頭を抱えてしまった。


処理…しきれない。





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