激甘バーテンダーは、昼の顔を見せない。



「…杉原さんのバーに【西條綾乃】が通っていると聞いた時、接触したいと真っ先に思いました。しかし当時は教師としての仕事も、役員としての仕事もまだ慣れていなくて、時間を作ることが難しかったんですよね」

「いつか、短時間でもバーテンダーとして勤務して【西條綾乃】と接触できたら…そう思い頑張って来たのですが、2年前にお見合いをするからもう来ないと言っていたと聞き…焦心したものです」


東郷さんは私の肩に腕を回し、優しく抱き寄せる。
力強く温かい腕に、心が落ち着く気がした。


「【西條綾乃】と再会した、あの日。色々と準備が整ったので【西條綾乃】と接触できなくても、普通にバーテンダーとして働こうと決めた矢先でした。お店に現れた時は…心底驚きました」

「…大泥酔の貴女に、キスをされるとは思いませんでしたが。昔から興味のあった【西條綾乃】。その方が今俺の腕の中にいること、嬉しく思っております」


優しい瞳。


東郷さんとは、昔から出会っていたなんて…全然知らなかった。


人生何があるか分からない。
それを証明するかのような…運命と、偶然によって巡り合った…出会い。



「…聞きたいんですけど。…この前の、本業の旅行って…修学旅行だったということですか?」
「そうです。引率で九州に行きました」



東郷さんの右手と私の左手を重ね、指を絡ませる。
いつまでも触れていたいと思わせる温かい手。

触れるその手を、強く握り締めた…。


「西條さん、ホテルに行きますか…」

耳元でそう囁かれ、身体が身震いする。

「はい…」



時刻は深夜2時23分。
6時間半後には会社に出勤しないといけないと分かっているのに。

熱くなった身体は、もう抑えられない。





< 37 / 44 >

この作品をシェア

pagetop