激甘バーテンダーは、昼の顔を見せない。
「…綾乃さん、おはようございます…」
「…ん…?」
名前を呼ばれ目を開けると、そこには……【東城先生】がいた。
「……え!?」
モサっとした、少し長めの黒髪。
黒縁の四角い眼鏡。
13年前とそんなに変わらない姿…【東城先生】だ。
「綾乃さん…身体は大丈夫ですか」
「あ…大丈夫です…」
「良かったです。ゆっくりして頂きたいところですが、支度しないと会社に遅刻しますよ」
「……」
【東城先生】なのに、東郷さんの口調。
少しパニックになっている私を他所に、東郷さんはネクタイを結んでいた。
「…東郷さん、それ…ウィッグですか?」
「良く気付きましたね。そうです、ウィッグです。因みに眼鏡は度なしの伊達眼鏡。【東城和孝】の、作られた姿です」
そう言って、ニヤッと笑った。
「その姿を私に見られたくなかったから…夜しか会えなかったのですか?」
「…そうです。朝も、ホテルで準備をして学校に直行しておりましたから。見られたくなくて…綾乃さんを置いて行っていました。それは本当、すみませんでした」
「……いいえ、事情が分かり…良かったです」
ベッドから出て、散らかっている服を身に着ける。
まだ時間は少しだけ余裕がある。
昨日と同じ服はまずいから…家に寄って着替えよう…。
「…それでは綾乃さん、また今晩…バーでお待ちしております」
「はい、東郷さん。また、行きますね…」
見つめ合い、軽く唇を重ねる。
「……何だか、【東城先生】とキスしているみたいで、複雑です」
「どちらも俺なので、慣れて下さいね」
微笑み、優しく抱き締めてくれる腕。
東郷さんの大きな胸に包まれ、心の底からの幸せを感じた。