激甘バーテンダーは、昼の顔を見せない。
「……」
自然と歩く足が止まる。
少し俯いて突っ立っていると、近付いてきた光莉さんが声を上げた。
「…え、綾乃さん…?」
私の姿を見た2人は、急いで腕を解き離れた。
焦っているかのようなその動作を見て、何故だか嫌な汗が流れ始める。
「綾乃さん…今日だったっけ…」
「いえ、明日なんだけど…会いたくなってきたの…」
隣にいる、可愛らしい女性。
しばらく私の顔を見つめたのち、視線を光莉さんの方に移した。
「あの、婚約者さん?」
「…あ…あぁ…、そう…」
頬を軽く掻き、困ったような表情の光莉さん。
可愛らしい女性はそんな光莉さんに一瞬微笑み、軽やかな足取りで私に近付いてきた。
「初めまして。みっくんの幼馴染の鷹宮梨香子です。鷹宮不動産ってご存知? そこの専務執行役員をしております」
思わず魅入ってしまうくらい綺麗な所作。
鷹宮不動産は知っている。言わずもがな、こちらも大企業だ…。
ただ、光莉さんに幼馴染が居たことは知らなかった。
こんなにも綺麗で、可愛らしい人。
悔しいけれど、私には無いものを沢山持っている。
「良い機会だから、お話させて下さい。私、婚約者さんとみっくんが出会う前から、みっくんとお付き合いをしております」
「………」
言っている意味が分からなくて目が点になる。
…お付き合い?
光莉さんは小さく溜息をついて、幼馴染の隣に並んだ。
「…綾乃さん、ごめん。いつか言おうと思っていたんだけど、本命は…梨香子なんだ。綾乃さんとは親父たちが決めた政略結婚だから拒否権は無いし…」
頭を強く殴られたような衝撃が走る。
隣で嬉しそうに微笑む幼馴染。
言いづらそうに言葉を絞り出す婚約者。