激甘バーテンダーは、昼の顔を見せない。
…光莉さん。
いつも車なのに。
何で今日は歩いていたんだろう…。
そんな光莉さんは小声で、とんでもない言葉を発した。
「…綾乃さん、申し訳ないけれど。綾乃さんは、2番目に愛そうと思う…」
体が震える。
最初こそお見合いだったけれど。
私は光莉さんのことを、本気で好きになっていた。
だからこそ、悲しくて…悔しくて……。
…やばい、涙と怒りの感情だけは堪えなきゃ。
そう思って耐えていたのに。
「大体、西條産業開発の社長令嬢なのに【西條綾乃】を隠して、【西野聖華】を名乗っていることすら、おかしなお話です。中学から公立だったのでしょう? そんなお方が、みっくんと釣り合うのかしら?」
そんな幼馴染の言葉に、耐えられなくなった。
「…光莉さん、分かりました」
左手の薬指に嵌めていた婚約指輪。
それを外し、光莉さんに向かって思い切り投げる。
「あ、綾乃さん!」
「…光莉さんのこと、好きになっていた私が馬鹿みたい」
動揺している光莉さんを無視する。
そして私はそのまま走って、その場を後にした。
…何よ、あの幼馴染。
私、【西野聖華】を否定されることが1番嫌い。
それを否定されるってことは、私が歩んできた人生そのものを否定されることと同じだから。
あの人は本名のまま、置かれた状況のまま、楽しく有意義な人生を送れて来たのでしょうね。
…悔しい。
…幼馴染にも、光莉さんにも。
私の気持ちなんて、一生理解できない。
光莉さんは幼馴染に私の話をしながら笑っていたのかな。
歩きながら涙が止まらない。
本当に自分が惨めに感じる。
明日会う約束をしていたのだから、今日は行かなければ良かった。
行かなければ、こんなことにはならなかったかな。
幼馴染のことを知らないまま、私は結婚をしていたのかな。
…でも、それはそれで…どうなの?
「…何よ、本当…」
悔しい。
悔しくて、悔しくて…どうしようもない。