激甘バーテンダーは、昼の顔を見せない。
「…和孝くん。今日は貸切にしようかね」
「……はい、マスター」
“和孝くん”と呼ばれた見たことの無い人は、『本日貸切』と書かれた札を持って外に出て行った。
「マスター…貸切にしないで下さい…。売上が…」
「…そんなの、聖華ちゃんが気にしないこと。久しぶりだし、僕が君と話したいから良いの」
ピーナッツの盛り合わせを出してくれながら、優しい笑顔を浮かべているマスター。
…マスターが父親よりも年上で無ければ、間違いなく惚れていただろうなぁ。
涙を拭いながら、そんなことを思う。
「そう言えば、先に彼を紹介しておこうね」
“和孝くん”と呼ばれた人が中に戻ってくる。
同時にマスターは彼の肩を持ち、私の方を向いた。
「今年からここで働き始めた、東郷和孝くんだよ。本業の関係で、23時から翌1時までしか勤務できないんだけど、彼の作るお酒も美味しいから。是非、和孝くんも宜しくね」
「…宜しくお願いします」
ジッと私の目を見つめ、深く頭を下げた東郷さん。
高身長でスラっとしており、蝶ネクタイにベストを合わせたここの制服が良く似合っている。
「彼女は西野聖華さん。成人した頃からずっとここに通ってくれていたんだけど、2年前のお見合いを機に来なくなって…。今日は本当、久しぶりなんだ」
マスターの紹介に合わせて、私も深く頭を下げた。
その後、貸切でお客の来ないバーで、マスターと東郷さんの3人で沢山の会話をして過ごした。
美味しいお酒に、楽しい会話。
…お見合いの話や、それにまつわる光莉さんの話まで。
沢山、飲んで。
沢山、食べて。
沢山、お話をした。
そして……
普通に酔い潰れた。