友達のままで
 (すばる)が出て行ってから、もう三日になる。
 どこにいるのか見当もつかない。
 男女問わず友達の多い昴のことだから、帰る家がなくても困らないのかもしれない。
 同棲を始めて二ヶ月足らずでこんなことになるなんて、夢にも思わなかった。
 睦美(むつみ)はソファーに体を沈め、昴と出会った日のことを思い出していた。

 一年前、親友の茉優(まゆ)に誘われたバーベキューで、焼き係をしていたのが昴だった。

「こっちおいでよ」

 昴が持っていたトングで手招きしながら言った。
 驚いた睦美はぎこちなく頷いてから移動し、バーベキューコンロを挟んで昴と向き合った。
 茉優と茉優の彼氏の航大(こうだい)が互いに友達を二人ずつ誘う形で、男女六人のバーベキューだった。
 自己紹介を済ませた睦美はいつものように相槌を打ちながら聞き手にまわっていた。話しかけられれば応えるが、自分から積極的に話しかけることはしない。人見知りな性格の睦美は、打ち解けるまでにかなりの時間を要するのだ。
 そんな睦美をよそに、昴は続けた。

「ここ、あったかいだろ? 睦美、薄着だけど大丈夫? 俺の上着着とく?」
「あ、いえ、大丈夫です」

 本心ではなかった。
 桜が満開の時期で天気は良かったが、実のところ少し肌寒さを感じていて、薄着で来たことを後悔していたところだった。
 もしも自分がイエスと答えていれば、自身を犠牲にして着ている上着を脱いで貸してくれていたのかと考えると、悪い気はしなかった。それどころか、そんな昴にかなり好感を抱いた。

「風で煙がそっちに行くから、こっち側おいでよ」

 手で煙を払いのけるようにしながら、再び投げかけられた昴からの気遣いの言葉に胸が高鳴った。

「てか、肉焼くの手伝ってよ。俺も食いたい!」

 自分の気持ちとはアンバランスな昴の言葉に、思わず吹き出してしまった。
 美味しそうに肉を頬張りながら見せる昴の人懐っこい笑顔が、睦美の緊張と警戒心を和らげた。
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