友達のままで
「ビールラスイチ(●●●●)ー!!」

 声を上げながら航大がクーラーボックスから缶ビールを取り出したかと思うと、突然始まる『最初はグー』の掛け声に思わず体が反応して、睦美もじゃんけんに参加していた。
 五人が『パー』、一人が『グー』で、六人のじゃんけんは一回で勝負が決まった。
『グー』を出したのは睦美だ。

「「「「宜しく~」」」」
「行ってきまーす」

 近くのコンビニまで買い出しに向かうと、ものの十数秒で追ってくる足音に気付いて睦美は振り返った。

「一人じゃ重いだろ? 付き合うよ」

 小走りで駆け寄ってきたのは、昴だった。

「え、いいの? ありがとう!」
「睦美、じゃんけん弱すぎだろ」

 笑いながら、昴は睦美の頭を撫でた。

「こんなとこで運は使わないんだよ~」

 平静を装っていたが、激しい心臓の鼓動がこめかみにまで響いて、それが昴の手のひらに伝わらないかと気が気でなかった。
 フランクな昴のそれに深い意味がないことはわかっていたが、睦美はその後しばらく昴の顔を真っ直ぐに見ることが出来なかった。

 別れ際に「またみんなで集まろう」と言ったのは昴だった。
 率直な昴の言葉は、よくある社交辞令ではないような気がした。
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