友達のままで
「梅雨が明けた頃に、またバーベキューやろうって」

 ソファーで寛いでいた睦美に、航大との電話を終えた昴が言った。

「……」
「あれ? 睦美、聞いてる?」
「私は行かない」
「え、また? 何で? 土曜か日曜だったら仕事は休みだろ?」
「……」

 前回は、友達との約束があると嘘をついた。

「何? 何かあんの? てか、梅雨が明けた頃って言ってただけで、まだ日にちは決まってねえし」
「……」
「何で黙ってんだよ。あ、もしかして、最近ちょっと太ったんじゃねえかって俺が言ったこと、まだ気にしてる?」

 的外れなうえに、茶化されたことで無性に腹が立った。

「最近楽しくない」
「何が?」
「皆で集まるの」
「え? だって睦美、いつも楽しみにしてたじゃん」

 昴は全く自覚していないようだった。

「ねえ、昴?」
「ん?」
「……友達に戻ろう」

 それは、自分の心の傷が最も浅くて済むギリギリの選択だった。

「は? どういうことだよ」
「これ以上言わせないでよ」
「何だよそれ」

 友達から恋人になるのは、簡単なようで実は一番難しいのかもしれない。

 ――出会った頃の、友達だった頃のあなたに会いたい。

「昴とは付き合わないほうが良かったのかも」

 さすがに昴の目を見ては言えなかった。

「訳わかんねえ!」

 昴がどんな表情で叫んだのかはわからなかったが、顔を上げると、玄関を飛び出す昴の後ろ姿が見えた。
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