【書籍原案版】氷の魔術師様は、婚約破棄された私を愛し尽くす~バッドエンドからループして、今度こそ彼に溺愛される~

第2話


 思わぬ返しにフィッシェルは顔をあげて彼の綺麗な瞳を見つめる。
 冗談かと思っていたのだが、存外彼の目は真剣でそしてそんな瞳に吸い込まれそうになる。

(そんなこと言われたら、ドキドキする……)

 そう思っていたフィッシェルの身体はふいにレイに引き寄せられる。
 ぐいっと身体と身体が近づき、そして彼の細く角ばった手がゆっくりとフィッシェルの唇のすぐ横を撫でる。

「婚約破棄されたって聞いて驚いた。君はもう彼の元にいってしまうって思ってたから」

 フィッシェルは教室の薄暗い中で突然恋人に別れを告げられたことを思い出して、表情を曇らせる。
 それに気づいたレイは彼女の頬を優しくなでて、そして慈愛の瞳で見つめながら言う。

「ごめん、思い出させるつもりで言ったわけじゃなかったんだ。今言うのは不謹慎かもしれない。でも言わせてほしい」

 レイは覚悟を決めたようにフィッシェルの目を見つめると、形のいい唇が言葉を紡いだ。

「好き」
「……え?」
「僕はずっとフィッシェルが好きだったんだ。だから、僕の婚約者になってほしい」

 突然の愛の告白に思わず固まってしまって声が出ないフィッシェル。
 数秒の沈黙が流れた後で、彼女はあたふたとして取り乱した。

「え? その、え? レイ様が、その、え? 私を、好き?」
「うん」

 信じられないほどの衝撃にフィッシェルは頭がくらくらしてきて、そして頭の中が真っ白になる。
 どうしていいかわからないまま、手があたふたと宙を何度も行き来し、そして目がきょろきょろとして視点が定まらず、目の前にいる彼と目が合っては恥ずかしさで逸らしてしまう。

(レイ様が、私を好き?)

 あまりにも自分の中で信じられない言葉だったため、何度も口に出したり、心の中で呟いたりを繰り返す。

「君のことが好きだったんだ、幼い頃からマリーと一緒に遊ぶ君をずっと見つめてた。でも、君が14歳のときに君の婚約が決まってからは自分の気持ちを抑えようと会うことを減らした」

(もしかして、高等部にあがる少し前からレイ様と会わなくなったのって、お仕事が忙しかったんじゃなくて、それで……?)

 レイはもう一度頭をなでると、フィッシェルの目線に合わせるように少し屈んで微笑んだ。

「無理に今返事はしなくていい、ただ、これからは遠慮なく君を落としにいくから覚悟してて?」
「──っ!!!」

 ぽわっと顔が赤くなるのが自分でもわかり、恥ずかしくなって顔を隠そうと手で顔を覆うフィッシェルだが、その手を掴まれてリンゴのように赤い顔が露わになる。

「その反応ってことは、少しは期待して良いのかな?」

 少し意地悪そうに口角を上げて笑うレイに、益々フィッシェルはドキリとする。

(こんなにドキドキしたのなんて、ハエル様でもなかったのに……!)

 自分自身の想いと鼓動に戸惑いながら、彼の瞳から目を離せずにいると、何かぞくりと嫌な予感がしてフィッシェルは身体をビクリと跳ねさせる。
 その瞬間にレイも険しい表情を浮かべ、窓の外に二人揃って視線を向けた。

 すると、窓から見える近くの森のほうからバタバタと凄い勢いで鳥たちが羽ばたいていき、そして禍々しい気配が森を覆う。

 咄嗟にフィッシェルは自分の意識より先に、魔物が”そこ”にいると感じ取った。
 レイに視線を向けると、彼もすでにそれを感じ取っており、二人は急いでその森の方へ向かう──

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