【書籍原案版】氷の魔術師様は、婚約破棄された私を愛し尽くす~バッドエンドからループして、今度こそ彼に溺愛される~
第3話
森のすぐ入口では馬車が魔物に襲われており、横転して動けなくなっていた。
御者はもう遠目から見ても息絶えていることがわかる様子で、そして魔物はすでに馬車の中にいた人物をも手にかけていた。
「マリーっ!!」
レイはその馬車が自車であること、そしてそれは今朝妹が乗っていっていた馬車であることを理解して妹の名を叫ぶ。
フィッシェルもその言葉に反応して馬車の中にいるマリーを助け出そうとするが、恐怖で足がすくんで動かない。
そして、最悪の事態は突如として訪れた。
馬車の中から血が溢れてきたと思ったら、だらりと少女の手が馬車から出ている。
よく見ると、その手首にはフィッシェルがマリーの誕生日に彼女にプレゼントをしたブレスレットがある。
「──っ!!!!」
マリーの命が失われたことを悟ると、レイは怒りで理性を失い、そして左手で自身の制御ピアスを外した。
ピアスはカランと地面に落ちて、そして魔物へと近づいていくレイの靴で踏みつけられて粉々になる。
「レイ様っ!!」
フィッシェルは彼を必死に止めようとするも、彼の氷の魔力が強すぎる影響で近づけない。
(マリーっ!! それにレイ様がっ!! どうしたら……)
そんなことを考えているうちにフィッシェルの目の前にいた人物は手を顔の前に翳した後、そのまま魔物へと指先を向ける。
すると、彼のまわりに無数の氷柱があらわれ、そしてそれらが魔物へと一直線に飛んでいく。
ああ、魔物は死んだ。
そう、フィッシェルは瞬時に頭の中で理解するほどに力は歴然で、そして一瞬のうちに決着はついて魔物の姿はそこになかった。
ただそこには、彼が愛する妹の亡骸が残っていた──
◇◆◇
「フィッシェル、パンを持ってきたよ。食べないのかい?」
「…………」
「フィッシェルの好きなレーズンパンだよ。これ以上食べないと、死んでしまうよ?」
彼はゆっくりとした動作と虚ろな目でフィッシェルにパンをちぎって差し出す。
──そのパンの渡し先は、鎖でベッドに繋がれたフィッシェル。
仄暗い明かりが灯る部屋は、一級品のシーツに枕の備えられたベッド、高級な木を使ったサイドテーブルに少し離れたところに椅子がある部屋。
部屋は広いのにどこか寂しいこの部屋でフィッシェルは、彼の手によって軟禁されていた。
「フィッシェル──僕の可愛い子、愛する子、誰にも触れさせない。誰の視線にも入れさせない。僕だけのもの」
「レイ様……ここから出して……」
「ダメだよ、ここから出たら魔物はおろか、野蛮な男どもに目をつけられるじゃないか。そんなの僕は許せない。僕だけのフィッシェル、ただ一人君だけがいればそれでいい」
フィッシェルは何日も食事が喉を通らず、そして段々思考能力が低下してきていた。
(レイ様……目を覚まして……)
彼女には祈ることしかできない。
マリーの死を目の前に何もできなかった自分を責め、そして愛する者を閉じ込めることで安息を得ている彼の目が覚めることを──
レイは鎖で繋がれたままのフィッシェルを後ろから抱きしめ、自分自身で着せたドレスの裾を撫でながら彼女の耳元で呟く。
「永遠に君は僕のもの。誰にも渡さないし、決して失わない。僕だけが君を愛する。それでいいよね?」
「レイ様……」
彼は後ろからフィッシェルの頬に手を当てて、首筋につーっと指を滑らせると唇をそこにつける。
彼女はもう自分で逃れる気力も、毎日行われるその歪んだ愛情の仕草を拒否することも、できなかった。
「僕の可愛いフィッシェル……」
(彼を好きなのに、彼とこのまま堕ちていくしかないの──?)
マリーの影を追いながら失うことへの恐怖で歪む、彼の愛を受けながら、とフィッシェルはふと目を閉じた──
御者はもう遠目から見ても息絶えていることがわかる様子で、そして魔物はすでに馬車の中にいた人物をも手にかけていた。
「マリーっ!!」
レイはその馬車が自車であること、そしてそれは今朝妹が乗っていっていた馬車であることを理解して妹の名を叫ぶ。
フィッシェルもその言葉に反応して馬車の中にいるマリーを助け出そうとするが、恐怖で足がすくんで動かない。
そして、最悪の事態は突如として訪れた。
馬車の中から血が溢れてきたと思ったら、だらりと少女の手が馬車から出ている。
よく見ると、その手首にはフィッシェルがマリーの誕生日に彼女にプレゼントをしたブレスレットがある。
「──っ!!!!」
マリーの命が失われたことを悟ると、レイは怒りで理性を失い、そして左手で自身の制御ピアスを外した。
ピアスはカランと地面に落ちて、そして魔物へと近づいていくレイの靴で踏みつけられて粉々になる。
「レイ様っ!!」
フィッシェルは彼を必死に止めようとするも、彼の氷の魔力が強すぎる影響で近づけない。
(マリーっ!! それにレイ様がっ!! どうしたら……)
そんなことを考えているうちにフィッシェルの目の前にいた人物は手を顔の前に翳した後、そのまま魔物へと指先を向ける。
すると、彼のまわりに無数の氷柱があらわれ、そしてそれらが魔物へと一直線に飛んでいく。
ああ、魔物は死んだ。
そう、フィッシェルは瞬時に頭の中で理解するほどに力は歴然で、そして一瞬のうちに決着はついて魔物の姿はそこになかった。
ただそこには、彼が愛する妹の亡骸が残っていた──
◇◆◇
「フィッシェル、パンを持ってきたよ。食べないのかい?」
「…………」
「フィッシェルの好きなレーズンパンだよ。これ以上食べないと、死んでしまうよ?」
彼はゆっくりとした動作と虚ろな目でフィッシェルにパンをちぎって差し出す。
──そのパンの渡し先は、鎖でベッドに繋がれたフィッシェル。
仄暗い明かりが灯る部屋は、一級品のシーツに枕の備えられたベッド、高級な木を使ったサイドテーブルに少し離れたところに椅子がある部屋。
部屋は広いのにどこか寂しいこの部屋でフィッシェルは、彼の手によって軟禁されていた。
「フィッシェル──僕の可愛い子、愛する子、誰にも触れさせない。誰の視線にも入れさせない。僕だけのもの」
「レイ様……ここから出して……」
「ダメだよ、ここから出たら魔物はおろか、野蛮な男どもに目をつけられるじゃないか。そんなの僕は許せない。僕だけのフィッシェル、ただ一人君だけがいればそれでいい」
フィッシェルは何日も食事が喉を通らず、そして段々思考能力が低下してきていた。
(レイ様……目を覚まして……)
彼女には祈ることしかできない。
マリーの死を目の前に何もできなかった自分を責め、そして愛する者を閉じ込めることで安息を得ている彼の目が覚めることを──
レイは鎖で繋がれたままのフィッシェルを後ろから抱きしめ、自分自身で着せたドレスの裾を撫でながら彼女の耳元で呟く。
「永遠に君は僕のもの。誰にも渡さないし、決して失わない。僕だけが君を愛する。それでいいよね?」
「レイ様……」
彼は後ろからフィッシェルの頬に手を当てて、首筋につーっと指を滑らせると唇をそこにつける。
彼女はもう自分で逃れる気力も、毎日行われるその歪んだ愛情の仕草を拒否することも、できなかった。
「僕の可愛いフィッシェル……」
(彼を好きなのに、彼とこのまま堕ちていくしかないの──?)
マリーの影を追いながら失うことへの恐怖で歪む、彼の愛を受けながら、とフィッシェルはふと目を閉じた──