『悪役令嬢』は始めません!
(あっ、そうだ。図書室の本も見られなくなるんだ……)
王妃教育に必要だからと本の閲覧権限について、これまで私には『準王族』が与えられていた。
準王族以上しか入室できない部屋には、主に現代では再現不可能な遺物についての文献が収められている。
実は日本の知識をこちらで再現するにあたって、大いに参考にさせてもらっていた。それが見られなくなるというのは痛手であるし、また私なら再現できそうなものがまだ幾つかあった。その点についても残念である。
まあ、正史では消された記述や捏造された事件の真相など、やばい内容の閲覧権限までは与えられていなかったのは、不幸中の幸いか。この辺りを知っていようものなら、国外追放からの国を出た瞬間に暗殺というデッドエンドルートに乗りかねない。
男主人公がいたなら危機一髪で助けが来るシチュエーションであるが、自らその存在を拒否してしまった私は確実に死ぬ。本当にそんな状況でなくて良かった。
(すぐに取り掛かれそうなものについては、今のうちに再現してしまおう)
名付けて、『再現してしまえば、閲覧制限がなくなる』作戦だ。
今までも家電など再現してきたものは、王侯貴族が独占するなんてことはなく広く公開されてきた。おかげで最初に私が設計したものより改良された型が次々と出て、どんどん生活が便利になってきている。職人さんたちのその向上心、尊敬します。
(念のため遺物とは別に、何か用意しておいた方がいいかも)
遺物に関しては、現代で再現できないだけで元々この国にあったもの。私でなくとも、時代が進めば再現できる者は増えて行くはず。
物でないならシステムだろうか。機能的な施設や流通、農業から工業までの改善提案を思い付く限り書き出しておこう。
あとはそれらをスムーズに稼動させるため、魔石を安定して供給する方法が必要だ。今でも年々、魔石の需要は増えているわけだし。
現状、魔石は鉱石の一種として採掘しているらしい。採れたての魔石は魔力を含んでいて、その魔力を取り出すとただの石ころに変わると言われる。
イメージ的には電池……ならば、充電式の魔石は作れないか。また、人工的に生成できないだろうか。
実際の研究については専門家に任せるが、取っ掛かりだけでも書いておこう。仮説の仮説程度であっても、あるのとないのとでは大違いだと思うから。
(そうだ。暗殺なしの国外追放になったら、企画を売り物にしてみよう)
これから対策は取るつもりだが、それでも悪役令嬢らしく国外追放になってしまう可能性もある。遺物に関してのものでなければ、国外で活用しても知識の持ち出しとは見なされないはず。
書き出しているのはローク王国の社会に沿ったシステムではあるが、きっと幾つかの問題は他の国にも当て嵌まる。数打ちゃ当たる。
他国で名声を得て、それが母国に伝わるタイプのざまぁもよくあるパターン。そういった意味でも、この方向の準備をするのは正解に思える。
「よし、もうひと頑張り」
私は再度机に齧り付いた。
そして翌朝机を枕に眠っている姿をメイドに見つけられ、机で泣き疲れて眠ってしまったという誤解を受けたあげく、家中から同情の目を向けられたのだった……。
王妃教育に必要だからと本の閲覧権限について、これまで私には『準王族』が与えられていた。
準王族以上しか入室できない部屋には、主に現代では再現不可能な遺物についての文献が収められている。
実は日本の知識をこちらで再現するにあたって、大いに参考にさせてもらっていた。それが見られなくなるというのは痛手であるし、また私なら再現できそうなものがまだ幾つかあった。その点についても残念である。
まあ、正史では消された記述や捏造された事件の真相など、やばい内容の閲覧権限までは与えられていなかったのは、不幸中の幸いか。この辺りを知っていようものなら、国外追放からの国を出た瞬間に暗殺というデッドエンドルートに乗りかねない。
男主人公がいたなら危機一髪で助けが来るシチュエーションであるが、自らその存在を拒否してしまった私は確実に死ぬ。本当にそんな状況でなくて良かった。
(すぐに取り掛かれそうなものについては、今のうちに再現してしまおう)
名付けて、『再現してしまえば、閲覧制限がなくなる』作戦だ。
今までも家電など再現してきたものは、王侯貴族が独占するなんてことはなく広く公開されてきた。おかげで最初に私が設計したものより改良された型が次々と出て、どんどん生活が便利になってきている。職人さんたちのその向上心、尊敬します。
(念のため遺物とは別に、何か用意しておいた方がいいかも)
遺物に関しては、現代で再現できないだけで元々この国にあったもの。私でなくとも、時代が進めば再現できる者は増えて行くはず。
物でないならシステムだろうか。機能的な施設や流通、農業から工業までの改善提案を思い付く限り書き出しておこう。
あとはそれらをスムーズに稼動させるため、魔石を安定して供給する方法が必要だ。今でも年々、魔石の需要は増えているわけだし。
現状、魔石は鉱石の一種として採掘しているらしい。採れたての魔石は魔力を含んでいて、その魔力を取り出すとただの石ころに変わると言われる。
イメージ的には電池……ならば、充電式の魔石は作れないか。また、人工的に生成できないだろうか。
実際の研究については専門家に任せるが、取っ掛かりだけでも書いておこう。仮説の仮説程度であっても、あるのとないのとでは大違いだと思うから。
(そうだ。暗殺なしの国外追放になったら、企画を売り物にしてみよう)
これから対策は取るつもりだが、それでも悪役令嬢らしく国外追放になってしまう可能性もある。遺物に関してのものでなければ、国外で活用しても知識の持ち出しとは見なされないはず。
書き出しているのはローク王国の社会に沿ったシステムではあるが、きっと幾つかの問題は他の国にも当て嵌まる。数打ちゃ当たる。
他国で名声を得て、それが母国に伝わるタイプのざまぁもよくあるパターン。そういった意味でも、この方向の準備をするのは正解に思える。
「よし、もうひと頑張り」
私は再度机に齧り付いた。
そして翌朝机を枕に眠っている姿をメイドに見つけられ、机で泣き疲れて眠ってしまったという誤解を受けたあげく、家中から同情の目を向けられたのだった……。