『悪役令嬢』は始めません!
コール子爵令嬢に場所を空けてと言われた私は空け――るわけなく。そのままさっと周囲を確認した。
乱れた生け垣を発見し、次いでコール子爵令嬢を改めて見遣ればその頭の上には葉っぱが。どうみても忍び込んできた感じだ。
「失礼ながら、本日のお茶会のご招待客とは見受けられないのですが?」
気を取り直したらしいセレナが、コール子爵令嬢に尋ねる。寧ろ怪しい侵入者くらいの彼女に対して、穏やかな対応だ。だがその物腰が裏目に出たのか、子爵令嬢は斜め上の答を返してきた。
「知っています。ですから、ここへ案内しなかった使用人については不問にするとお約束いたします」
「は?」
素で返したセレナの横、私たちは三人は「えええええー……?」と心の声が揃ったに違いない。
「私を待たずにお茶会を始めてしまったことについても、咎めません。私の都合が付くかどうか、セレナさんはわからなかったでしょうから。仕方ないです」
宇宙人だ。ここに宇宙人がいる……。え、本当に何を言っているんだろう、この子。
セレナに非があると言外に仄めかしながらの、「でも私は気にしていませんよ」という態度。器の大きい人間でも演じているつもりなのだろうか。私の記憶ではそれは、『器』ではなく『態度』が大きいと表現するのだけれど?
「そこの伯爵令嬢お二人についても、許します。登城できるような地位ではありませんものね。まだアデリシア様とスレイン様が婚約破棄されたこと、ご存知でなかったんでしょう」
「先程から失礼ですよ、コール子爵令嬢。今ならまだ見逃してあげます。どうぞ速やかにお帰り下さい」
とうとうセレナが険のある声で、コール子爵令嬢を制した。
セレナは侯爵令嬢で、しかもここは彼女の邸。本来なら姿を見せた瞬間に、有無を言わせずつまみ出すこともできた。
そうせずにコール子爵令嬢の話を聞いてあげたことも、今帰れば見逃すという言葉もセレナの温情。なのに――
「帰るかどうかは私が決めます」
やはり話が通じないのか。さも当然のように彼女は言い放った。
「だって私は次期王妃なんですから。それに、先日スレイン様から伝え聞いたのです。近々私を、スレイン様と見合う身分にして下さるという陛下のお言葉を」
次いで、コール子爵令嬢はうっとりとした顔でそう語った。桃色髪ということで可愛い路線を目指しているのか、祈るような仕草付きで。
そんな彼女はどう見ても、この場の全員が「いやもしそうだったとしても、今はまだ子爵令嬢ですよね」という顔をしていることにまったく気付いていない。
「お父様の地位が上がるのか、それとも私が格式のある家に養女となるのかはまだ決まっていません。でも、元平民の、しかも孤児だった者が侯爵令嬢を名乗っているくらいです。きっと私なら、すぐにでも準備が整うと思いませんか?」
変わらず恍惚とした表情で、コール子爵令嬢が同意を求めてくる。それも、セレナに向かって。
その露骨ともいえる他人を小馬鹿にした態度に、私は考えるより先に椅子から立ち上がっていた。
乱れた生け垣を発見し、次いでコール子爵令嬢を改めて見遣ればその頭の上には葉っぱが。どうみても忍び込んできた感じだ。
「失礼ながら、本日のお茶会のご招待客とは見受けられないのですが?」
気を取り直したらしいセレナが、コール子爵令嬢に尋ねる。寧ろ怪しい侵入者くらいの彼女に対して、穏やかな対応だ。だがその物腰が裏目に出たのか、子爵令嬢は斜め上の答を返してきた。
「知っています。ですから、ここへ案内しなかった使用人については不問にするとお約束いたします」
「は?」
素で返したセレナの横、私たちは三人は「えええええー……?」と心の声が揃ったに違いない。
「私を待たずにお茶会を始めてしまったことについても、咎めません。私の都合が付くかどうか、セレナさんはわからなかったでしょうから。仕方ないです」
宇宙人だ。ここに宇宙人がいる……。え、本当に何を言っているんだろう、この子。
セレナに非があると言外に仄めかしながらの、「でも私は気にしていませんよ」という態度。器の大きい人間でも演じているつもりなのだろうか。私の記憶ではそれは、『器』ではなく『態度』が大きいと表現するのだけれど?
「そこの伯爵令嬢お二人についても、許します。登城できるような地位ではありませんものね。まだアデリシア様とスレイン様が婚約破棄されたこと、ご存知でなかったんでしょう」
「先程から失礼ですよ、コール子爵令嬢。今ならまだ見逃してあげます。どうぞ速やかにお帰り下さい」
とうとうセレナが険のある声で、コール子爵令嬢を制した。
セレナは侯爵令嬢で、しかもここは彼女の邸。本来なら姿を見せた瞬間に、有無を言わせずつまみ出すこともできた。
そうせずにコール子爵令嬢の話を聞いてあげたことも、今帰れば見逃すという言葉もセレナの温情。なのに――
「帰るかどうかは私が決めます」
やはり話が通じないのか。さも当然のように彼女は言い放った。
「だって私は次期王妃なんですから。それに、先日スレイン様から伝え聞いたのです。近々私を、スレイン様と見合う身分にして下さるという陛下のお言葉を」
次いで、コール子爵令嬢はうっとりとした顔でそう語った。桃色髪ということで可愛い路線を目指しているのか、祈るような仕草付きで。
そんな彼女はどう見ても、この場の全員が「いやもしそうだったとしても、今はまだ子爵令嬢ですよね」という顔をしていることにまったく気付いていない。
「お父様の地位が上がるのか、それとも私が格式のある家に養女となるのかはまだ決まっていません。でも、元平民の、しかも孤児だった者が侯爵令嬢を名乗っているくらいです。きっと私なら、すぐにでも準備が整うと思いませんか?」
変わらず恍惚とした表情で、コール子爵令嬢が同意を求めてくる。それも、セレナに向かって。
その露骨ともいえる他人を小馬鹿にした態度に、私は考えるより先に椅子から立ち上がっていた。