『悪役令嬢』は始めません!
こっちもやっぱり男主人公でした
「スレインが兵役に就く間、コール子爵令嬢が暮らす場所は私の方で用意させていただきました」
スレインがいなくなりどうしたものかとオロオロしていたコール子爵令嬢にそう切り出したのは、シグラン公爵令息だった。
その声掛けに、彼女がパッと顔を輝かせて彼を振り返る。
(この状況でときめけるとは、肝が据わり過ぎてるわ……)
確かにどんな状況でも見るだけで幸せな気分になれるほどイケメンですけどね、そこの令息。
私はレンさんを見て、それから父(所定の位置に戻った)を見た。何の反応も示していないところを見ると、二人とも予めこの件について知っていたようだ。
「スレインが赴く地は、魔物と戦う最前線オーグラン地方です。そこにある修道院にあなたを紹介させていただきました」
「え……?」
シグラン公爵令息が言いながら、神官の初老男性を手で指し示す。それを受けて神官はコール子爵令嬢と目を合わせ、座ったまま会釈した。
神官が自分に関係があるとは露程も思っていなかったのだろう、コール子爵令嬢が目を瞬く。
それから彼女は、シグラン公爵令息に向き直った。
「いえ、あの。私はロークで彼を待とうかと――」
「それは難しいと思いますよ。あなたを私が指定する修道院に送ることを条件に、本来必要な保釈金を減額させていただきましたので」
「保釈金……?」
シグラン公爵令息の答に、コール子爵令嬢が何のことか理解出来ないという顔をする。
あれ? こんな展開、ついさっきも見たような?
「お忘れですか? ラッセ侯爵家への不法侵入及びラッセ侯爵令嬢への侮辱により、あなたが牢に入れられた件です。とてもコール子爵家では用意できない額でしたので、私が子爵に提案して差し上げた次第です」
「え? え……?」
困惑の色が濃くなったコール子爵令嬢を見るシグラン公爵令息の目が、スッと冷たいものに変わる。
こんな展開もさっき見たような……。
「まさか父親がただ迎えに来ただけとお思いでしたか? ラッセ侯爵家で狼藉を働いてそんなわけはないでしょう。国外追放程度で済んでよかったと思った方がいい。あなたには二度と、私のセレナに近付かないでいただきたい!」
シグラン公爵令息が綺麗な目を釣り上げ、語気を荒げる。
――って、待って。今、「私のセレナ」って言わなかった⁉
(一体、いつの間に……)
私が『悪役令嬢』のフラグを折ったので、シグラン公爵令息はそのまま努力家の侯爵令嬢――セレナとの恋物語にシフトしたということか。
『悪役令嬢』と『シンデレラストーリー』を同時進行とかとんでもないな、推定――いやもう推定じゃない男主人公。そしてやっぱりどんな相手とでも恋物語が始まる男だったか、サミュエル・シグラン……。
「あなたが行く修道院は、僻地としては大規模な集団墓地の管理も行っています。ですので常に人手が足りず、他国の人間であっても歓迎するそうですよ」
「僻地の修道院……」
コール子爵令嬢が「修道院……墓地……」と焦点の合わない目でブツブツと繰り返す。
そんな彼女の側へ静かに神官が寄った。そして彼女の手をそっと取り、迷子を導くようにして二人で部屋の外へと出て行った。
(私とシグラン公爵令息、両方の物語でざまぁ要員だったのコール子爵令嬢……)
大物女優の退場に、今度はレンさんではなく私が、閉まった扉を見つめてしまう番だった。
スレインがいなくなりどうしたものかとオロオロしていたコール子爵令嬢にそう切り出したのは、シグラン公爵令息だった。
その声掛けに、彼女がパッと顔を輝かせて彼を振り返る。
(この状況でときめけるとは、肝が据わり過ぎてるわ……)
確かにどんな状況でも見るだけで幸せな気分になれるほどイケメンですけどね、そこの令息。
私はレンさんを見て、それから父(所定の位置に戻った)を見た。何の反応も示していないところを見ると、二人とも予めこの件について知っていたようだ。
「スレインが赴く地は、魔物と戦う最前線オーグラン地方です。そこにある修道院にあなたを紹介させていただきました」
「え……?」
シグラン公爵令息が言いながら、神官の初老男性を手で指し示す。それを受けて神官はコール子爵令嬢と目を合わせ、座ったまま会釈した。
神官が自分に関係があるとは露程も思っていなかったのだろう、コール子爵令嬢が目を瞬く。
それから彼女は、シグラン公爵令息に向き直った。
「いえ、あの。私はロークで彼を待とうかと――」
「それは難しいと思いますよ。あなたを私が指定する修道院に送ることを条件に、本来必要な保釈金を減額させていただきましたので」
「保釈金……?」
シグラン公爵令息の答に、コール子爵令嬢が何のことか理解出来ないという顔をする。
あれ? こんな展開、ついさっきも見たような?
「お忘れですか? ラッセ侯爵家への不法侵入及びラッセ侯爵令嬢への侮辱により、あなたが牢に入れられた件です。とてもコール子爵家では用意できない額でしたので、私が子爵に提案して差し上げた次第です」
「え? え……?」
困惑の色が濃くなったコール子爵令嬢を見るシグラン公爵令息の目が、スッと冷たいものに変わる。
こんな展開もさっき見たような……。
「まさか父親がただ迎えに来ただけとお思いでしたか? ラッセ侯爵家で狼藉を働いてそんなわけはないでしょう。国外追放程度で済んでよかったと思った方がいい。あなたには二度と、私のセレナに近付かないでいただきたい!」
シグラン公爵令息が綺麗な目を釣り上げ、語気を荒げる。
――って、待って。今、「私のセレナ」って言わなかった⁉
(一体、いつの間に……)
私が『悪役令嬢』のフラグを折ったので、シグラン公爵令息はそのまま努力家の侯爵令嬢――セレナとの恋物語にシフトしたということか。
『悪役令嬢』と『シンデレラストーリー』を同時進行とかとんでもないな、推定――いやもう推定じゃない男主人公。そしてやっぱりどんな相手とでも恋物語が始まる男だったか、サミュエル・シグラン……。
「あなたが行く修道院は、僻地としては大規模な集団墓地の管理も行っています。ですので常に人手が足りず、他国の人間であっても歓迎するそうですよ」
「僻地の修道院……」
コール子爵令嬢が「修道院……墓地……」と焦点の合わない目でブツブツと繰り返す。
そんな彼女の側へ静かに神官が寄った。そして彼女の手をそっと取り、迷子を導くようにして二人で部屋の外へと出て行った。
(私とシグラン公爵令息、両方の物語でざまぁ要員だったのコール子爵令嬢……)
大物女優の退場に、今度はレンさんではなく私が、閉まった扉を見つめてしまう番だった。