『悪役令嬢』は始めません!
怒濤の一日もそろそろ終わりを告げる。あっという間に夜になり、後は寝るだけとなった。
『あっという間』の用途は勿論、今後の計画を立てるのに費やした。主に、要注意人物の書き出しと参加するお茶会の選別だ。
机に頬杖をつきながら、今し方出来上がった資料たちを見下ろす。
要注意人物としては、二人の名を挙げた。
一人目は、当然ながらジェニファー・コール子爵令嬢。直接的な加害者であるのに面識がなく、情報も少ない。彼女関連で聞く噂は、大体がコール家のものだ。まあ本人、パッとしない令嬢だったしね……。
コール家はお金で爵位を買った新興貴族で、そのせいか貴族からも平民からも評判があまりよろしくない。下級貴族な上、評判も良くないとなれば、彼女が正妃になることはおそらくないだろう。
私の婚約については、国王陛下の許可を得て破棄されたとスレイン王子は言っていた。先程父の執務室で目にした王家の印章入りの手紙から行って、嘘ではないだろう。となると、正妃については友好国から迎えるつもりかもしれない。確かスレイン王子を産んだ王妃殿下も他国出身だったはず。
(この辺りの事情については、なるべく痴情のもつれとかなくお願いしますって感じ)
二人目はスレイン王子――ではなく、サミュエル・シグラン公爵令息の名を挙げた。こちらもまったく面識がない。では何故、要注意人物なのか。彼の場合は寧ろ、だからこそと言っていい。
(やばい。シグラン公爵令息の圧倒的男主人公感が……やばい!)
現国王陛下の甥にあたる、二十一歳。父であるシグラン公爵は王位継承権を放棄しており、彼が王位継承第二位となっている。噂では美男子で性格も良く婚約者はいないとか。
コール子爵令嬢の一件で、後ろ盾が期待できないスレイン王子よりシグラン公爵令息が台頭する未来が色濃くなってきた。スレイン王子が他国から姫を娶るより、現実的にさえ思える。そんなポテンシャルがシグラン公爵令息にはある。
だって、『スパダリ』で検索をかけたらヒットしそうな項目をすべて満たしていますよ、この男性。何だこの有り得ないお買い得物件。出会ったが最後、『悪役令嬢』に限らず『聖女』でも『王女』でも恋物語が始まる。間違いない。これは駄目だ。サミュエル・シグラン公爵令息にだけは会ってはいけない。
――と、ここまでが要注意人物の書き出し。
(直近の参加予定のお茶会は……ラッセ侯爵令嬢――セレナが主催のものね)
私は参加予定として抜き出した、友人からの招待状を指でつついた。
セレナが開くお茶会の参加者リストには、伯爵令嬢以上しかいなかった。伯爵令嬢以上しか呼ばれないお茶会なら、幾ら私が悪役令嬢でもコール子爵令嬢とバッタリ遭ってしまうことはなくて安心だ。
セレナのお茶会も含めて、参加予定のお茶会は三つ。
どれも令嬢のみ参加の女子会で、また念のため、すべてシグラン公爵令息が好きだと公言している令嬢が参加するお茶会は避けた。
女子会にこだわったのは、彼とは何の拍子に出会ってしまうかわからないからだ。何せ彼は、推定男主人公であるから。
そして彼を好きだという令嬢を避けたのは、後日ひょんなことで彼と知り合ってしまったときの保険である。あらぬ噂を立てられ、それが令嬢たちの耳に入ってややこしいことに……という事態になるやもしれない。何せ私は、悪役令嬢であるから。
ちなみにこれはどうでもいいことではあるが、スレイン王子が好きだと公言している令嬢は――いなかった。
『あっという間』の用途は勿論、今後の計画を立てるのに費やした。主に、要注意人物の書き出しと参加するお茶会の選別だ。
机に頬杖をつきながら、今し方出来上がった資料たちを見下ろす。
要注意人物としては、二人の名を挙げた。
一人目は、当然ながらジェニファー・コール子爵令嬢。直接的な加害者であるのに面識がなく、情報も少ない。彼女関連で聞く噂は、大体がコール家のものだ。まあ本人、パッとしない令嬢だったしね……。
コール家はお金で爵位を買った新興貴族で、そのせいか貴族からも平民からも評判があまりよろしくない。下級貴族な上、評判も良くないとなれば、彼女が正妃になることはおそらくないだろう。
私の婚約については、国王陛下の許可を得て破棄されたとスレイン王子は言っていた。先程父の執務室で目にした王家の印章入りの手紙から行って、嘘ではないだろう。となると、正妃については友好国から迎えるつもりかもしれない。確かスレイン王子を産んだ王妃殿下も他国出身だったはず。
(この辺りの事情については、なるべく痴情のもつれとかなくお願いしますって感じ)
二人目はスレイン王子――ではなく、サミュエル・シグラン公爵令息の名を挙げた。こちらもまったく面識がない。では何故、要注意人物なのか。彼の場合は寧ろ、だからこそと言っていい。
(やばい。シグラン公爵令息の圧倒的男主人公感が……やばい!)
現国王陛下の甥にあたる、二十一歳。父であるシグラン公爵は王位継承権を放棄しており、彼が王位継承第二位となっている。噂では美男子で性格も良く婚約者はいないとか。
コール子爵令嬢の一件で、後ろ盾が期待できないスレイン王子よりシグラン公爵令息が台頭する未来が色濃くなってきた。スレイン王子が他国から姫を娶るより、現実的にさえ思える。そんなポテンシャルがシグラン公爵令息にはある。
だって、『スパダリ』で検索をかけたらヒットしそうな項目をすべて満たしていますよ、この男性。何だこの有り得ないお買い得物件。出会ったが最後、『悪役令嬢』に限らず『聖女』でも『王女』でも恋物語が始まる。間違いない。これは駄目だ。サミュエル・シグラン公爵令息にだけは会ってはいけない。
――と、ここまでが要注意人物の書き出し。
(直近の参加予定のお茶会は……ラッセ侯爵令嬢――セレナが主催のものね)
私は参加予定として抜き出した、友人からの招待状を指でつついた。
セレナが開くお茶会の参加者リストには、伯爵令嬢以上しかいなかった。伯爵令嬢以上しか呼ばれないお茶会なら、幾ら私が悪役令嬢でもコール子爵令嬢とバッタリ遭ってしまうことはなくて安心だ。
セレナのお茶会も含めて、参加予定のお茶会は三つ。
どれも令嬢のみ参加の女子会で、また念のため、すべてシグラン公爵令息が好きだと公言している令嬢が参加するお茶会は避けた。
女子会にこだわったのは、彼とは何の拍子に出会ってしまうかわからないからだ。何せ彼は、推定男主人公であるから。
そして彼を好きだという令嬢を避けたのは、後日ひょんなことで彼と知り合ってしまったときの保険である。あらぬ噂を立てられ、それが令嬢たちの耳に入ってややこしいことに……という事態になるやもしれない。何せ私は、悪役令嬢であるから。
ちなみにこれはどうでもいいことではあるが、スレイン王子が好きだと公言している令嬢は――いなかった。