【短】こんな今日も、悪くない。




「ま、また明日~」



お弁当を無事に回収した高瀬へ、私は挨拶を送ってみる。

アンニュイな高瀬くんは無視か、うなずく程度だろう。


何事もなかったように去っていかれたなら、私はまた寂しくなる構ってちゃん。


正解は前者。

無言で教室の扉へと歩いていった高瀬───は。



「それでさ」



足を止めて、パチン。

ガラガラガラと、ふたつの扉が閉められる。


なんてあっけなく付いてしまったの、電気。



「なんで泣いてんの」



────………あ、やばい。


ずっと暗かった蛍光灯に明かりが付くように、頑張って耐えていた涙腺が崩壊した。



「っ…、べつ、にっ」


「振られたとか」


「ちが、う」


「ヨシツネの泣き所でも打ったとか」


「それ言うならベンケーだよっ、…そうじゃないけど…っ」



なんで雨の日の放課後、教室でひとり脛(すね)を打って泣いてなきゃなんないの。



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