エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 仕事を片づけ、ロッカールームで制服を脱ぐ。私服に着替えて荷物をまとめ終えたところで、美月のスマホが鳴った。画面に表示された名前は晴馬ではなく……善次郎だ。

「はい、美月です」

 すっかり仲良くなったので、緊張することもなく応答する。彼の要件は、横浜の北原邸で一緒にディナーをしないかという誘いだった。

「嬉しいです。じゃあ、私たちの休みが重なる日を確認して、またご連絡しますね」

 晴馬も美月も固定休ではないのですぐに返事をすることは難しく、そんなふうに伝えて電話を切った。

 善次郎はとても話上手なので、彼と会うのは楽しみだ。前回は、善次郎が世界各地で泊まった思い出のホテルを教えてもらった。

(優しくて、素敵な人なのよね)

 だからこそ……通用口から外に出て、美月は夜空を仰ぐ。

 これ以上、善次郎に嘘をつき続けるのが苦しくてたまらなくなってきていた。それに、晴馬がいる暮らしに慣れきっている自分も怖かった。

(この生活はもうすぐ終わる。わかっているのに……)

 彼の気配がない部屋に帰る。その日を想像するだけで寂しさに泣きたくなった。

(必死に蓋をしようとしてきたけれど、私やっぱり……)

 そのとき、もう一度美月のスマホが鳴り出す。善次郎がなにか言い忘れでもあって、かけ直してきたのかと思ったが違った。

(晴馬だ。今は勤務中のはずなのに、どうしたんだろう?)

 不思議に思いながら電話に出ると、届いた声は晴馬ではなく、聞き覚えのない男性のものだった。男性的な野太い声。伊沢(いさわ)と名乗った彼は、晴馬の職場の先輩だそうだ。
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