エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
「ありがとう。助かるよ」
「とんでもございません。どうぞ、素敵なお食事会を」

 男性客はぺこりと頭をさげて、去っていく。

 こんなふうに、コンシェルジュはお客さまの様々な質問や要望にお応えするのが仕事だ。今の男性の質問は難しいものではなかったが、困ったお願いをされることも多々ある。たとえば先日は、愛人との旅行でこのホテルを利用していたお客さまが『妻が来ちゃったから、かくまってくれ』と駆け込んできた。

(あれは大変だったわ……)

 これまでに受けた無茶な要望は数えはじめたらきりがないが、それでもお客さまの笑顔のために最善を尽くすのがこの仕事。
 帝都グランデホテルで過ごす時間が、すべてのお客さまにとって大切な思い出となるように――。〝特別〟を演出する、仕掛人。それが美月たちホテリエだ。

「もうっ。あなたが駅前にあるって言うたからわざわざ行ってきたのに」
「も、申し訳ありません」

 今度はコンシェルジュデスクの少し先で、お客さまと女性従業員がなにか揉めている様子だった。年配の女性客と、従業員はフロントスタッフのグレーの制服に身を包む……。

(本間さんだ!)

 美月は慌てて彼らのほうに近づく。

(恋人を奪われた恨みから言うわけでは決してないけど……)
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