エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 彼女はあまり仕事が得意ではない。愛嬌はあって、そこはとても素晴らしいのだけれど、ちょっとした聞き間違えや単純なチェック漏れなどが非常に多いのだ。

「なにかご不便がございましたでしょうか」

 美月が声をかけると、女性客は呆れた顔で訴える。

「夕食に履いていく予定だった靴のヒールが折れてしまったの。修理できる店は?と彼女に聞いたら、駅前にあるって教えてくれたから行ってきたんだけどね……」

 先月末で店は閉店していたと彼女は言う。

「大変、失礼をいたしました」

 深々と頭をさげてから、美月は彼女に尋ねる。

「失礼ですが、夕食は何時からのご予定でしょうか」
「七時よ」

 今の時刻は午後二時、十分に間に合いそうだ。

「よろしければ、私に靴をお預けいただけませんか。修理に出したうえで、部屋までお届けいたしますので」
「あら、いいの? そうしてもらえると助かるわ。このあとヘアサロンの予約も入っているのよ」

 彼女は自身のうなじを撫でながら、そう言った。

「もちろんでございます。靴のヒールは現在のものと同じ太さ・高さで構わないでしょうか。それとも変更のご希望が?」
「あっ、そうね。実は七センチのヒールだと少し歩きにくいなと思っていたの。五センチにして、太さのあるものだと嬉しいわ」
「かしこまりました」
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