エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 なんでも、由奈は昨日美月からの注意を受けたあと、その場にうずくまって泣き出していたそうなのだ。そして、通りがけに声をかけたパートスタッフにこう訴えた。

『先輩社員から妊婦は役に立たないって怒られて、そのうえ……階段から……』

 話を聞いたスタッフが由奈の上司である加賀谷に報告。最初に由奈の声をかけたパートさんは口が軽いほうなのであっという間に広まったという状況のようだ。

(役に立たないなんて話は一切していないし、そもそも階段の下で話をしていたのに突き飛ばせるはずがないじゃない)

 そう訴えたかったけれど、もう遅い気がした。

『俺たちの関係が悪化したのは美月が浮気したせい』

 省吾がついたその嘘も。

『嫉妬に狂った羽山さんに階段から突き飛ばされそうになった』

 由奈がついたその嘘も。

 みんなあっさり信じて、こちらのほうが悪者扱い。派閥争いに巻き込まれるのが嫌で、どこのグループに属していなかったのがいけなかったのかもしれない。誰も美月をかばってはくれなかったようだ。

「羽山さん。昼休憩のとき、ちょっと話せるかい?」

 美月より少し遅く出勤してきた上司の加賀谷にそう声をかけられた。さすがに彼は真偽を確かめ、公正な判断をくだしてくれるだろう。そう信じていたのに……。

 狭い打ち合わせブースで加賀谷と対峙する。
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