エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
「いや~申し訳ないんだけどさ、例のチーフへの昇進の話は白紙ってことで。それと、うちから誰かひとりを系列のリネンサプライ会社に送るって件は、羽山さんにお願いしようと思ってるから。出向は八月からだから頼んだよ」

 由奈とのトラブルの件を確認することもなく、彼はとんでもない話をさらっと告げる。厄介事は早く済ませたいと言わんばかりの態度だ。

 けれど、美月にとっては耳を疑う内容でとても理解が追いつかない。

(白紙? なに、それ……)

 コンシェルジュチームの現チーフが神戸のホテルに異動することになり、後任は美月でと内々に話が進められていたのだ。念願だったチーフへの昇進。それをあっさりくつがえされたばかりか、系列会社への出向打診とは。

 制服やシーツ、タオルなどの業務用クリーニングをおもな業務とするリネンサプライ事情はホテル業界とは切っても切れない縁があり、重要な仕事だ。だが、研修や応援におもむくわけではない。出向ともなれば、数年単位でホテリエの仕事には戻れないだろう。

「ま、待ってください。おっしゃる意味が……」

 恋人の心変わりはどうにかのみ込めたが、さすがにこれは無理だ。美月は声をあげたけれど、加賀谷の視線は氷のように冷たい。

「今はコンプライアンスには厳しい時代だからさ。マタハラを告発された人間を昇進させるわけにはいかないよ。わかるでしょ」
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